類冬ワンドロ・爪/我慢

パチン、と爪を切る音が響く。
それに気が付いた冬弥が持っていた洗濯物を置いてちょこんと座った。
「おや?何か珍しいかな、冬弥くん」
「いえ。…類さんはいつも爪を綺麗にしているので、どんな手入れをしているのかと」
「ふふ、大したことはしていないよ」
クスクスと笑い、類は冬弥を呼び寄せる。
素直にやってきた彼を抱き込み、また爪を切る作業に戻った。
「なるべく角を作らず、丸くするのがコツでね」
「…なるほど」
「こうすることでヤスリもかけやすくなるんだよ」
パチリ、と最後の爪を切り終わり、爪切りを置く。
隣に置いてあった爪ヤスリを手に取れば冬弥がきょとりとした。
「…?ヤスリまでかけるんですか?」
「もちろん。君のことを傷つける訳にはいかないだろう?」
「…えっ」
爪を見せつけながらそう言えば冬弥は灰鼠色の瞳を丸くする。
「傷付け…?」
「そうだよ??…僕の指、好きだろう?ねぇ……冬弥」
ぼそり、と彼の耳に囁やけばその途端に全てを理解したらしい、ぶわっと首筋を赤くさせた。
それを、可愛らしい、と思う。
「…あの、類さん……」
「ふふ。逃さないよ」
もぞもぞと身体を動かす冬弥に低く笑い、ヤスリをかけた。
この後この指で如何されるか、想像させながら。
恥ずかしさを我慢しながら自分を乱れさせる指が整っていくのを見て冬弥はどんな顔をしているのだろう。
見てみたいが…今日は我慢、だろうか。
「…はい、終わり」
「わっ。あ、あの、類さん!俺の、爪も…!!」
ヤスリを置いた途端に抱きしめたまま押し倒す。
珍しく慌てる冬弥が、爪切りを所望してきた。
だが、それを類は断る。
「駄目だよ、冬弥くん」
「え、な、なんで…ぁっ」
戸惑う彼の爪先に、ちゅ、とキスをする。
そうして類は小さく彼に笑いかけた。


恋人からの背中の傷は男の勲章と言うだろう?

(それは可愛い彼がくれた、愛の証)

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