ワンドロ・彼シャツ/手をつなぐ

歩いている彰人の肩にぽつりと水滴が落ちてきて、げ、と思いながら空を見上げた。
意外と姉の言うことも当たるものだな、と彰人は持たされた折りたたみ傘を広げる。
朝、珍しく早くに起きてきていた絵名が「今日雨降るって」と渡してきたそれはオレンジと派手な色をしていた。
嫌がらせか、と嫌な顔をしつつ、傘を差せば瞬く間に水滴は雨へと変わる。
今日の自主練は公園では出来ないな、なんて思っていた…その時だった。
「…は?」
前を、見たことがあるツートンカラーが歩いている。
この雨の中、傘も差さずに。
「…冬弥!」
「?!彰人?!」
ぐいっと手を引けば彼は驚いた顔してこちらを向いた。
「何やってんだお前は!」
「…傘を忘れてしまったらしくてな。カバンに入っていると思っていたのだが…」
「…雨宿りとかしろよ…風邪引いたらどーする」
「…すまない」
へにゃ、と彰人の怒りに眉を下げる冬弥に、仕方がないな、と溜飲を下げる。
ごちゃごちゃ言っても過ぎたことだ。
代わりに、冷たい彼の手をぎゅっと握り、傘の中に引き入れる。
「…彰人?」
「…うち、来いよ」
シャワーくらい貸してやる、と言外に言えば冬弥はまた、すまない、と小さく笑みを見せた。


珍しく誰もいなかった我が家のリビングに、風呂から出たらしい冬弥がひょこりと顔を出した。
「…すまない、服まで…」
「…別に。サイズ、合ったか?」
「…然程問題はない」
申し訳なさそうに言う冬弥に、そーかよ、と彼の服にドライヤーを当てながら彰人は言う。
「そこまでしてくれなくても…」
「そういう訳にもいかないだろ。お前が帰れなくなる」
「…俺は、別に構わないが」
くす、と冬弥が笑んだ。
不思議に思い、ドライヤーの手を止め、ふり仰ぐ。
ぽたりと髪から水滴が落ちたそれを首にかけたタオルが受け止めた。
彰人のシャツを着た冬弥が可愛らしく笑う。
「彼シャツ、というのだろう?…彰人の匂いがする」
「ん、な……!!」
嬉しそうに笑む冬弥に彰人は言葉を失った。
本当に…彼は!!
「彰人…?わっ」
「お前ホントいーかげんにしろよ?!!」
首を傾げる冬弥の髪を、大きめのバスタオルでわしゃわしゃと拭いてやる。
そうしなければ理性が爆発しそうだったから。
雨粒が窓を打つ。
自分の白いシャツを着てバスタオルを被った冬弥はまるで花嫁みたいだな、と思わず手を握ったのだった。



「…別にイチャイチャしてもいーけど、場所は考えなさいよね」
「おぅわ?!絵名?!てめっ、いつから…!」
「…自宅なんだから何時からいたっていいでしょ、別に」
「…?彰人?何か声が……」
「何でもねぇ!何でもねぇから!!」

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