浴衣デートをしませんか

ふぅ、と類は舞台から降りて空を見上げる。
今日のショーも大成功、と言って良いだろう。
お疲れ様ぁ!と声が飛んだと思ったら、スマホからバーチャルシンガーの鏡音レンがひょこりと顔を出した。
「やあ、レンくん。見ていてくれたのかい?」
『もっちろん!ほら、類くんが用意してたドローンにモニターが付いてたでしょ?あそこから見えるんだよー!』
えっへん!と胸を張っていたレンが、そうだ!と声を上げる。
『お客さんの中に、あの子がいたよ!ほら、結婚式の時の…!』
「…結婚式…って」
何故だが嬉しそうなレンに類が聞き返そうとしたその時だった。
「…あ、類。青柳くん、来てたけど…」
『そうそう!青柳くん!!』
「…レン、見てたんだ?」
顔を出した寧々にレンが言う。
特に驚きもせず微笑む寧々にレンと自分のスマホを託し、類は外に出た。
あたりを見回すとツートンカラーの髪が道の先を曲がろうとしているのに気付く。
「…っと、危ない危ない」
せっかく来てくれたのに会えないところだった、と類は微笑み、とん、と塀を超えた。
少し道幅が狭いそこを通り抜け、穴をくぐる。
「よっ…っと。…やあ、青柳くん」
「?!神代先輩?!」
「酷いじゃないか。声もかけてくれないなんて」
出た先で冬弥と出くわし、にこりと笑えば冬弥は驚いた顔をした。
「…すみません。お着替え中かと」
「まあ、せっかくだし、今日はこのままでいるつもりだよ」 
謝る冬弥に笑みを浮かべ、類は腕を持ち上げる。
風に袖が揺れた。
「…似合ってます、先輩」
「ありがとう、青柳くん」
素直に褒めてくれる冬弥に類は微笑む。
今日の演目は和物だったので、類も浴衣を着ていたのだ。
フェニックスワンダーランド自体がサマーフェスティバル期間で、キャストは皆浴衣を着用しているせいもある。
「青柳くんもどうだい?」
「俺も、ですか?」 
「ああ。君さえ良ければ、だけどね。まだ予備の浴衣もあるし」
類は笑い、手を差し出した。
まるで、プロポーズするが如く。
「せっかくだし、君とこのまま浴衣デートをしたいのだけれど。…どうだろう、青柳くんの時間を少し僕にくれないかい?」
パチン、と、ウインクする類に、冬弥は驚いたようだったがすぐ小さく微笑んだ。
そうして差し出した手にそっと自分の手を乗せてくる。
まるで、逃避行するみたいだなと類は笑った。
「…俺の時間…先輩にお渡しします」



さあ、行こう。

いつもと違う服で、いつもと違うワンダーランドに!!


「…あの、先輩…?」
「ちょっと待ってくれ、青柳くんに似合う浴衣はまだあるはず…!」
(プランナーの血が騒いだ類による、浴衣ファッションショーが1時間ほど開催されたのは…また別の話)

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