類冬ワンドロ・わたあめ/お祭り

どこか彼がしょんぼりしている気がして、類はおや、と首を傾げた。
感情が表情に出ない冬弥だけれど、今日はなんだか分かりやすく落ち込んでいる気がする。
「やあ、青柳くん。どうかしたかな」
「…神代先輩」
ひらりと手を振ると彼は曖昧に微笑んだ。
「もしかして夏バテかい?随分元気がなさそうに見えるけれど」
「…そう、ですか?」
類の指摘に冬弥はきょとんとする。
どうやら自覚はないらしかった。
「一応元気なつもりなんですが…」
「そうかい?僕にはしょんぼりしているように見えたからね。勘違いならすまない」
にこりと笑うと冬弥は何かを思い出したのだろう、ああ、と言う。
「この前、彰人と一緒に夏祭り会場に設置されたステージに出たんです。その時初めてお祭り、というものに行ったんですが…」
「?楽しくなかったのかい?」
あまり脈絡が見えず、そう首を傾げた。
「いえ、とても楽しかったんですが、その…わたあめ屋さんが思ったものと違ったというか…」
困ったような冬弥に、今度は類がああ、と笑う。
実は冬弥は文化祭の出し物でわたあめ屋をやったようなのだが、形がウサギだったりクマだったりととても凝った形だったのだ。
彼は夏祭りにも文化祭と同じクオリティを望んだらしい。
「うーん、飴細工ならともかく、あまり綿飴では見かけないかもね」
「…そう、ですか…」
「…でも」
にこ、と笑い類は自身のスマホを見せた。
覗き混んだ冬弥は目を見開く。
そこには、類自作のわたあめ機が、あった。
「もし君が良ければ、だが、2人きりの夏祭りをしないかい?他にも色々あるんだ」
「…!良いんですか?」
「もちろんだとも!」
嬉しそうな冬弥に類は頷く。
彼のために、2人きりのお祭りを。

(それは、綿あめのように甘く儚い、時間)

name
email
url
comment