冬弥の日

「やあ、青柳くん!これから僕と一緒に図書館へ…」
「冬弥!オレと共に新しく出来た大型書店に行かないか?!」
ホームルームが終わってすぐ飛び込んで来る変人ワンツーに、名前を呼ばれた冬弥がきょとんとする。
ちなみに、クラスメイトはまたか、といった顔だ。
「…司くん、少しは僕に遠慮しても良いのではないかな?」
「何を言う。類こそ、オレに譲ろうとは思わんのか?」
教室に入ってきながらもバチバチと火花を散らす2人に、冬弥は困惑しきりで。
「…あの、司先輩、神代先輩…」
呼びかけようとする冬弥を誰かがスッと遮る。
…いや、遮る、というより分かりやすく、何かが冬弥の肩にのしかかった。
「すみませんねー、センパイ方。冬弥はこれから『オレと』練習があるんでー」
「…彰人?!」
見せつけるように抱き寄せ、彰人はべ、と舌を出す。
ムッとしたのは言われた方だ。
「ねぇ、東雲くん。僕たちは先輩なんだけどな?」
「オレに至っては冬弥の幼馴染なのだが?」
「いや、関係ないッスね。冬弥の相棒はオレなんで」
類と司のそれに彰人はきっぱりと言った。
だが、それで諦める2人ではない。
「彰人はそれで構わんだろう。だが冬弥の気持ちがあるだろう」
「そうとも。青柳くんだってしたいことがあるはずだよ」
「少なくともセンパイ方に決められるようなことじゃあないとオレは思いますけどー?」
「…青柳くん」
何とも子どもっぽい言い争いにオロオロしていた冬弥を、誰かが呼んだ。
こっち、と手招きするのは寧々である。
「…草薙?」
「適当に放置しないと。どうせ暫くはあのままなんだから」
とてとてと抜け出した冬弥に、寧々は呆れたように息を吐いた。
すまない、と冬弥が曖昧な笑みで微笑む。
「…そうだ、これ」
はい、と手渡されるそれに冬弥は首を傾げた。
小さな袋にはクッキーが大量に入っていたからだ。
「…ありがとう。これは?」
「えむ…うちのショーキャストが、天馬さんたちから預かったんだって。調理実習で作ったらしいんだけど、星乃さんとか花里さん、小豆沢さんたちも1枚ずつ入れてるから当ててみてねって」
「そうか。後でお礼を言わなければいけないな」
嬉しそうな冬弥に、寧々は首を傾げる。
「ねぇ。…今日、誕生日か何かなの?」
「あー、違う違う」
冬弥より早く答えたのはひょこりと隣のクラスから顔を出した杏だった。
「…白石さん」
「やっほー、草薙さん、冬弥!」
「ボクもいるよ!」
「暁山。…来ていたんだな」
ひらひらと手を振る瑞希に冬弥が微笑む。
「ほら、今日は10月8日じゃない?だから語呂合わせで…」
「ああ、なるほど」
「え?」
杏の説明に寧々は納得したらしいが冬弥はまだ分かっていないようだ。
だが、杏も瑞希もにこにこして何かを差し出す。
「これ、うちの珈琲割引券!いつでもサービスするからね」
「ボクからは本屋のオフチケットだよ。絵名からも預っててさ、2枚あるから好きに使って!」
「じゃあ、わたしも。…これ、コーヒー味ののど飴。司と類がいつもお世話になってるし」
「ありがとう…??」
首を傾げながらお礼を言う冬弥の背を、楽しそうに瑞希が押した。
「お礼は良いからさ!早く弟君たち止めておいでよ!」
「…あ、ああ」
疑問符を浮かべながら、また冬弥は争いの渦中に戻っていく。
「いやぁ、愛されてるねぇ」
「本当に。あの三人見てると羨ましくはないけどね」
「あははっ。でも、まあ良いじゃん?」
感心する瑞希、少し嫌そうな寧々に杏が笑った。


だって今日は10月8日。


本人も気がついていない、彼を甘やかして良い日。



(本日、10月8日とうやの日!!)

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