ただ1人、大好きな貴女に贈るファンサービス!(みのはる)

「…ぅうん……」
お弁当を食べながらみのりは頭を抱えた。
決して母が作ってくれたお弁当が美味しくないわけではない。
いつも通り、最高に美味しいけれど、今日はそれ以上に悩むことがあったのだ。
「…どうしたの?みのりちゃん」
「みのりがそんな顔するなんて、珍しいね」
そんな声にハッとすれば、心配するようにこちらを見つめるこはねと言葉より表情が雄弁な志歩がこちらを見ていた。
慌ててぶんぶんと手を振る。
「あっ、ごめんね!ちょっと考え事してただけなの!」
「…考え事?」
「良かったら、話してみてほしいな。何か力になれるかもしれないし」
「…こはねちゃん…」
「まあね。一人じゃまとまらない事も、三人いれば意外と何とかなるかもしれないし」
「…志歩ちゃんも…!ありがとう!!」
二人の明るい言葉に、みのりは思わず崇めてしまいそうになった。
…そんな事をすれば、こはねはともかく、志歩が嫌がるからしないけれど。
「あのね、もうすぐ遥ちゃんの誕生日なの。だから、何かサプライズでプレゼントしたいんだけど…」
「サプライズプレゼント、か…。でも、お誕生日って特別に動画配信したりしないの?」
みのりのそれに、こはねが小さく首を傾げる。
「そういえば、お姉ちゃんも桃井先輩も、誕生日に動画配信してたっけ。みのりも、配信でお祝いしてもらってたし」
「そうなの!動画配信は4人でするからわたしだけサプライズー!なんて出来ないし…そもそも、遥ちゃんに隠し事出来ないし!」
「みのり、分かりやすいもんね。桐谷さんは桐谷さんで敏いし」
力強く言うみのりに、志歩が笑った。
隣でこはねも小さく肩を揺らす。
「…あ、なら、放課後にスイーツ食べに行ったりするのはどうかな?桐谷さん、甘いもの好きだって、みのりちゃん前言ってたよね」
そうだ、と提案するこはねに、みのりはうーん、と上を向いた。
「遥ちゃん、実は食事制限してるんだよね…。ちゃんと糖質とか考えてスイーツとか食べに行く日のために調整してるんだよ!」
「へぇ、凄いね!」
「いや、感心してる場合じゃないでしょ」
えっへん!と何故か得意気なみのり、無邪気に拍手するこはねに、志歩がツッコむ。
割とよくある光景だ。
志歩のそれに、そうだった、と2人は思考を戻す。
「どうしようー!もう日がないよー!」
「み、みのりちゃん!そんな思い詰めなくても…!」
再び頭を抱えるみのりにこはねがオロオロとフォローに入った。
「うぅ…。…こはねちゃんも志歩ちゃんも、白石さんや一歌ちゃんにどんなプレゼントしたの?」
「えっ、私は杏ちゃんのためだけに考えたカフェメニューだよ」
「私は一歌専用のピック…って、私達のは良いでしょ」
少し赤い顔で志歩が言う。
素直に答えてしまったのが悔しいらしい。
「いやぁ、参考になるかなって…」
えへへ、と頭を掻くみのりにこはねが小さく笑った。
息を吐き出した志歩が、なら、とハンバーグを口に運びながら言う。
「じゃあ、みのりも桐谷さんにだけの、特別な何かをすれば?」



「は、遥ちゃん!」
「?どうかした?」
バースデー配信が終わったすぐ後、みのりは遥に話しかける。
こてりと首を傾げる様子もアイドルとして様になっているなぁ、と見惚れそうになり、慌てて首を振った。
「あのね!ちょっとだけわたしに時間をくれない…かな」
「いいよ。今日のトレーニングは済ませたし」
にこっと笑う遥にみのりはホッとする。
座って!と客席に座らせ、みのりは舞台に上がった。
「夢はきーっと、みのりんりん☆アイドル界のこたつになりたい、花里みのりです!」
ポーズを決めれば、遥はにこにこと拍手をしてくれる。
「わたし、遥ちゃんに憧れてアイドルになろうって思ったの!遥ちゃんみたいに、みんなに希望を届ける、アイドルに!」
「えっと、みのり?」
きょとん、とする遥にみのりは手を伸ばした。
「今のわたしはアイドルとしてはまだまだ未熟だけど、遥ちゃんの隣に立てるのがすごく嬉しいんだ!だからね、今よりもっともっともーっと頑張るから!」
みのりは笑う。
今までで一番、最高の笑顔で。
「…わたしの隣で、笑っていてくれますか?」
「…っ!…喜んで」
目を見開いた後、遥はふわりと笑う。
良かったぁ!と息を吐くみのりの手を握りながら、遥はくすくすと肩を揺らした。
「…もう、プロポーズかと思っちゃった」
「ええっ?!違うよ?!一応、ファンサのつもりだったんだけど…」
楽しそうな遥に驚きながら、みのりは慌てて言う。
「プロポーズは…もうちょっとだけ待ってほしいかも」
「…期待、してるね」
みのりのそれに遥は微笑んだ。

これから先、彼女にだけ贈る…


心を込めた、貴女宛のファンサ!



「…プロポーズは決定事項、でいいのかしら…?」
「あら、2人が幸せならいいんじゃないかしら」

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