アンヤバースデー(アンカイ)

「…っぱ似てねぇよなぁ…」
「…は?…なんでェ」
目の前にいるカイコクを眺めながらアンヤはぽつりと呟く。
小さな声だが聞こえていたのだろう彼がきょとんとしてから首を傾げた。
ゆら、とカイコクのお面の紐が揺れる。
別に何でもねぇよ、と答えながらアンヤはプレゼントだと渡された、チョコミントのカップアイスケーキを口に運んだ。
今日はアンヤの誕生日である。
消灯時間前にこっそり来た彼は「時間ギリギリのが俺らしいだろう?」と笑ったのだ。
まあ確かに日付が変わった途端に来られるよりはよっぽどカイコクらしいけれど。
「気になるじゃねぇか」
「大した事じゃねーよ」
笑う彼にチョコミントアイスを一口突っ込んでやる。
甘いものがあまり得意ではないらしいカイコクは途端に眉を顰め、思わず、ふは、と笑った。
「やっぱ似てねぇな」
「…あ?」
「…。…シン兄は、んな顔しなかったし」
アイスを口に運びながらアンヤは言う。
目をぱちくりと瞬かせ、カイコクが疑問符を浮かべた。
「…オレの兄貴。オメーと同じ大学生」
何も言わなくても分かったのだろうアンヤが口数少なく答える。
それだけで分かったのだろう、彼はああ、と笑った。
「お前さんの兄貴ねぇ。想像出来ねェな」
「そーか?…まー…性格は似てねぇし…。…見た目だけは似てんだけどな」
「ふぅん?」
アンヤのそれにカイコクが楽しそうに笑う。
珍しく機嫌が良いな、なんて思いながらアンヤは兄であるシンヤを思い浮かべた。
シンヤは優しいし、しっかりしている。
困ったことがあればいつも頼りにしていた。
ケンヤが亡くなって、アンヤが睡眠障害を患ってからも距離感の変わらない、優しく自慢の兄だ。
多分、アイスを突然口に入れたって驚きはするが、優しく笑うだろう。
アンヤみたいに無鉄砲でもない、ケンヤみたいにおおらかでもない。
…カイコクみたいに、寂しい人、ではないのだ。
だからこそ。
「シン兄もオメーと同じ黒い髪だし、大学生だけど、オメーみたいに意地悪でもちゃらんぽらんでもなかった」
「…なんでぇ、いきなり」
「…けどな」
急な言葉にカイコクは軽く笑う。
怒ることはしない、目の奥の優しさが少し似ている、気はするけれど。
彼は、兄ではない。
兄では、困るのだ。
だって、アンヤは、そんなカイコクのことが。
「意地悪だろーがちゃらんぽらんだろーが、オレのそーいう『好き』なのはオメーだけだからな」
「…は、え…?」
アイスを口に含み、アンヤはぽかんとするカイコクに口付ける。
割と直球に弱ぇよな、なんて自分のことを棚に上げて、アンヤは彼を押し倒した。



兄とは違う、カイコクだから好きになったのだ。

(せっかくの誕生日、少しくらい自分に正直になるべきだろ?)

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