きのこの日

今日はきのこの日らしい。
そんな大切な日にブスくれている可愛らしい女子とオロオロする男子がいた。
「…なぁ、鬼ヶ崎…?」
「…。なんでェ、忍霧」
腕組みをしながらじっとりと見つめる彼女にザクロは言葉を詰まらせる。
だが、ここで止まっては進まない、と勢い良く頭を下げた。
「急にすまない!!俺と松茸を探してくれないだろうか!!」
ザクロの勢いにカイコクは一瞬たじろいたがすぐに不機嫌な顔をし、息を吐いた。
「…朝早く起こされて?無理やり山に連れて来られたと思ったら松茸だぁ??」
「…う…。…すまないと思っている」
「本当に?」
「勿論だ!」
探るようなそれにザクロは頭を上げ、真剣に言う。
ザクロは嘘がつけない性格だと知っている彼女はまた息を吐いた。
「…分かった。忍霧の誠意は伝わったが、急に松茸狩りに来た理由が分からねぇんだが?」
純粋な疑問にザクロはああ、と言う。
「今日はな、きのこの日なんだ」
「…ほう?」
「それで、前に鬼ヶ崎が松茸を見つけたのを思い出してな。きのこの日に松茸を食べるのも良いかと」
「いや、あれは紛れ…まァいい。つまり、『ザクロくん』は、松茸を俺に探してほしいだけだって訳だな?」
少しブスくれる彼女に、それは違う!と勢い良く言った。
ただ、そんな理由だけでカイコクを呼ぶはずがないだろう、と。
「あの時は、勝負みたいになってしまっただろう。だから、その…ハイキングデートをしたい、と思って、な…」
言い訳じみたザクロのそれにカイコクはきょとんとする。
それからくすくすと肩を揺らした。
可愛らしく笑う彼女に、おい、と言えば機嫌が良くなったらしいカイコクがゲノムタワーの方に足を向ける。
「なら最初からそう言ってくれりゃ、それ相応の用意をして来たってェのに!」
「お、鬼ヶ崎?」
「あのなぁ、山道を歩くにゃ準備がある。…お前さんは女の子にいつもの格好で歩かせる気かい?」
「いや、その」
くす、と笑うカイコクに思わずたじろいだ。
確かにそうだが、彼女は『女の子』なんてか弱い存在だろうか。
「手伝ってくれるんだよな?忍霧??」
だが軽く微笑まれて手を差し伸べられてしまえばザクロは頷くしかなくて。

秋風に彼女のお面についた赤い紐が揺れる。


きのこの日デートはもう少し後になりそうだ。



「しっかし、お前さんのことだから、俺の松茸を食べてくれ、って言うかとおもったが」
「貴様は自分の好物をかけてセクハラしたいと思うのか?」
「…悪かったよ」

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