司冬ワンライ・○○欲/○○の秋

秋だ。

スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋…。
様々な【秋】がある中で。
司が見つけた秋は…。



「冬弥ー?すまない、遅くー…」
彼の待つ図書室にひょこりと顔を出す。
一緒に帰ろうと誘ったは良いが、委員会が遅くなってしまったのだ。
図書委員でもある冬弥は、本が好きだった。
そういえば、読書の秋は新刊が増えるんです、と非常に喜んでいたっけ。
だから、図書室から声がしなくても司は別に何とも思わなかった。
本に集中して周りの声や音が聞こえていない、なんてことは良くあるからである。
寧ろ、本の世界に引き込まれるほど集中できた、のなら少し遅くなってしまって良かったかもしれない。
…だが。
「…む」
カウンターにいた冬弥は珍しく眠っていた。
壁に頭を傾け、少しうつむき加減ですやすやと寝息を立てている。
読書家の冬弥も睡眠欲には勝てなかったようだ。
「…待たせてしまったようだな」
すまない、と小さく謝罪し、司は彼の足元に片膝を付く。
もう一度、すまない、と言ってから司は小さく微笑んだ。
開け放した窓から金木犀の香りが司の鼻孔を擽る。
遠くに聞こえるチャイムの音と、秋の夕暮れの日が冬弥の綺麗な肌を照らした。
柔らかい空気に、眠たくなるのも仕方がないな、と肩を揺らす。
彼の珍しいそれに、誰にも見せたくはないな、なんて想いながら、天使のような冬弥の寝顔に司はそっと手を伸ばした。


読書の秋に勝ってしまったのは睡眠の秋。


では、睡眠欲に勝ってしまったのは?


(それは、秋の冷たい風のような独占欲)

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