類冬ワンドロ・フリー

「あ、類!ちょーどいいところに!」
ぱぁっと顔を輝かせる友人に、類はおや、と笑う。
「どうしたんだい、瑞希。…その看板は?」
「ちょっと交代っ!」
「え?」
首を傾げる類に瑞希が持っていたそれを手渡した。
それには「フリーハグ」とある。
「…ずいぶん楽しそうなことをしているねえ?」
「やり出したのはボクじゃないけどね」
押し付けられちゃってさぁ、とケラケラ笑う瑞希に、某イベントの最後尾列看板じゃあるまいし、と思いつつ類はそれを返さなかった。
思ったより自分が暇だったのもある。
どんな人が寄ってくるかも見てみたかったし。
「まあ、押し付けられたからには、職務を全うしようじゃないか」
「たっすかるー!じゃあ、よろしくねー!」
微笑む類に瑞希が笑顔で駆けていく。
楽しそうで何より、と看板を持ち直す類に、「神代先輩?」と声がかかった。
「…おや、青柳くんじゃないか」
「お久しぶりです。ショーの練習中でしたか」
「いいや、今日はフリーハグだよ」
首を傾げる冬弥に、類は腕を広げる。
きょとんとする彼にフリーハグとは、を説明してやった。
「フリーハグとは街頭で見知らぬ人々とハグ をして、素晴らしい何か…例えば、愛・平和・温もりなどを生み出すために行われる活動のことさ」
「なるほど」
類の返答に、しばらく考えていた冬弥があの、と口を開く。
「どうしたんだい?」
「…先輩が、俺以外の人とハグをするのが…少し嫌なので、その看板を貸してもらえませんか?」
「…ん?」
思ってもみない言葉に、類は目をぱちくりとさせた。
「…えっと?」
「俺が代わりにフリーハグをするので、神代先輩はもうしないでいただけませんでしょうか」
可愛いことを言う冬弥に類は笑う。
無自覚の嫉妬とやらが、何とも愉快で心地よかった。 
「僕も、青柳くんが他の人とハグをするなんて見たくはないのだけれどな」
「…」
類の言葉に冬弥は困った顔をする。
それを見、ならこうしよう、と類は看板を置き、フリーの文字を黒で塗りつぶした。
その下に「yours」と書き出す。
「…!」
「これで、僕のハグは君だけのものだよ、青柳くん」
にこりと笑い、類は再度腕を広げた。
おずおずと冬弥がそこに収まる。
彼の鼓動を聞きながら、類は優しく、逃げられないように抱きしめたのだった。

僕のハグは、勿論君だけに捧ぐよ。

ねぇ、青柳冬弥くん?



「…うわ、本当にあんな作戦でいいんだ…」
「思ったより神代先輩ってストレートに弱いんだねぇ…」
「ボクは冬弥くんがあんな真っ直ぐストレートなのが意外だけどなー…」
(こそこそ、仲間や幼馴染の影のサポートだったと気付くのは?)


(もちろん、とっくに気づいていたさ!)

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