司冬ワンライ・小悪魔/お願い

「冬弥くんってさぁ、ピュアだよねー」
「そうか?どっちかってとあいつ、小悪魔寄りだぞ」
「あー、確かに。しかも無自覚小悪魔って感じだよね」 
賑やかしい声が一年の教室内から聞こえて、司は首を傾げる。
教室にいたのはよく見知った三人だ。
「何の話をしているんだ?」
「…げっ」
「あ、やっほー!司先輩!」
「こんにちは!…今、冬弥が無自覚小悪魔って話をですねー…」
嫌な顔をするのは彰人、明るく手を振るのは瑞希、そして楽しそうに教えてくれたのは杏である。
「…おい、杏」
「いーじゃない、別に。…そうだ、天馬先輩はどう思います?」
咎めるような口調の彰人にあっけらかんと言った杏がそう聞いてきた。
どう、とは?と首を傾げていれば無邪気に瑞希が手を挙げる。
「ボクも聞きたい!司先輩って冬弥くんと幼馴染なんでしょ?」
「そうだが…あまり悪魔的なものは感じたことはないな…どちらかといえば天使のようであったが」
「…見ろ、惚気けられたじゃねぇか。だから嫌なんだよ」
「あははー…。…じゃあ、惚気けついでに冬弥の話を…」
「…俺が、どうかしたのか?」
凄く嫌そうな彰人へ曖昧に笑った杏が提案した話を遮り、不思議そうな声が届いた。
振り返ると冬弥がいて、司は表情を崩す。
「おお、冬弥!ずいぶん遅かったなぁ」
「司先輩!…少し、図書室に寄っていて…」
「何っ?」
柔らかい表情でこちらに来た冬弥は何やら分厚い本を抱えていて、司は眉を顰めた。
彼は本を読み始めると夢中になる起来がある。
最近もそれで寝不足らしいと知ったばかりなのだ。
それなのにまたこんな分厚い本を読むとは…。
「冬弥、本を読みふけるのは良いが、こんなに分厚いと止め時が分からなくなるのではないか?これは学校で読むようにして家では他の本を…」
「…。…あ、の…実はこの本、先輩たちのいるフェニックスワンダーランドを舞台モチーフにした本らしくて…」
「むっ、そう、なのか」
「ぜひ、読んでみたいんです。…だめ、でしょうか…」
おずおずと冬弥が『お願い』してくる。
不安そうなそれに司は天を仰いだ。
可愛い恋人にそんな顔をされて強く言えるほど厳しい人間ではない。
「…日付が変わるまでには就寝するのだぞ…」
「…!ありがとうございます!」
苦渋のそれに冬弥が嬉しそうに笑った。
側で見ていた彰人が、な、と瑞希に向かって言う。
「…無自覚小悪魔だろ」
「…あれは確かに無自覚小悪魔だねぇ…」
ひそひそと囁かれるそれはニ人に届くことはなく。
「まーお互い幸せそうだから良いんじゃない?」
そう笑う杏の声が柔らかく秋風に乗った。

小悪魔でもいいじゃないか

可愛い恋人のお願いは聞いてやりたいって言うのが男ゴコロってもんだろう!



「っていうか、そんなに心配なら司先輩が冬弥くん家に泊まれば良いんじゃない?」
「おお、その手が!」
「…暁山…?!」

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