スーパーネコの日

本日はスーパーネコの日でございますよ、とパカが言った。
もちろん、言われた二人がはぁ?という反応をしたのはいうまでもなく。
ザクロは兎も角、カイコクは本当にそういう行事事、に興味がなかった。
だからそういう反応になるのも仕方がないと言えよう。
しかも、だ。
こちらは進入禁止区域に入ろうとしていた。
見ていただけだとカイコクは言い訳をしたが…そんな子どもじみた言い訳が通ると思うのかと呆れたが…普通ならば何か『以前と同じ』ペナルティを課されても仕方がないといえよう。
だが、パカはそう言ったのだ。
スーパーネコの日、だと。
一体どういう意味なのだろう。
何かの隠語なのか…ふざけているだけなのか。
「…。何なんでェ、その…スーパー?ネコの日、つうのは」
彼女は眉を寄せつつ警戒態勢を崩さなかった。
猫みたいだな、と思いながら、ザクロも彼女を護る様に立ちはだかる。
確かにカイコクは強いけれども、これでも一応彼氏なのだ。
好きな人を守りたいのは当然だろう。
「2022年2月22日」
「…それが…」
「このように2が並ぶのは非常に珍しいことなのでございます」
パカがそう言って近付いてきた。
二人揃って臨戦態勢を取る。
が。
「…鬼ヶ崎様は猫そっくりでございますね」
声が、耳元で聞こえた。
驚いて振り向いたザクロの真後ろで、カイコクが音も無く倒れる。
手を伸ばすザクロの視界も暗転し、そして。
セカイは闇に包まれた。



ザクロのセカイに、光が戻ったのはしばらく経ってからであった。
途端に襲う鈍い痛みに殴られたのか、なんて思いながらぼんやり目を開ける。
「…ぅ、ゃ…だっ…!や、め…!」
「しかし、躰は正直でございましょう?ねぇ、鬼ヶ崎様」
「ゃだ…っつってる…!ふぅ、ぃや…っ!!」
「…は?」
飛び込んできたのは信じられない光景だった。
カイコクが、嬲られている。
誰に?
…パカに。
理解するより早く、ザクロは体が動いていた。
ナイフに手をかけ、確実にパカを殺そうとして…止まる。
「…っ!!やめろ!!!」
「…おや、遅いお目覚めでしたねぇ、忍霧様」
鋭いカイコクの声に、パカがぐりんとこちらを向いた。
「…鬼ヶ崎を離せ」
感情を押し殺してザクロは言う。
彼女がやめろと言ったから。
そう言い訳をしなければ殺してしまいそうだった。
「…。…本日はスーパーネコの日でございますよ、忍霧様」
「…。…何の、話だ」
またその話を持ち出したパカにザクロは睨む。
「いえ。…悪い子猫にはお仕置きを、と思いましてね」
「…っ!」
「っぅ、ふ…んぅ…っ!!」
パカが彼女の秘部に手を伸ばした。
必死に声を上げないように堪えているカイコクを、パカは責め立てる。
「進入禁止だと、私は申し上げました。それを何度も何度も破るのは貴方方では?」
「…そ、れは…」
「忍霧様。貴方は鬼ヶ崎様を一度は止めた。その事実はこちらも周知しております。それ故、執行猶予を与えましょう」
何の感情もない声でパカが言った。
執行猶予、と乾いたそれで繰り返す。
「いかにも。鬼ヶ崎様には、今猫耳がついております。この猫耳は脳波を操作して猫の鳴き声しか出せないようになっておりましてね。しかしながらこれだけではまだ作動しないのでございます。…こちらを、装着しなければ」
そう言って、パカが差し出したのは猫の尻尾だった。
先に目を背けたくなるくらいエグい大きさのバイブが着いている。
「それを、俺に付けさせる、と?」
「…選ぶのは忍霧様で御座いますよ。まあ、罰はそれなりに受けて頂くことになるかと存じますが」
「…っ、ふざけ…っ!!」
「…大事な人を見殺しにするほど…貴方は強くはないはずだ」
激昂するザクロにパカが言った。
それに大きく目を見開く。
被り物のせいで表情は見えないが…笑っているように、見えた。
パカはこう言っているのだ。
やらなければ、カイコクを犯し、嬲り殺す、と。
それがザクロにとってどれだけ大きな傷になるか知っていて。
震える手でバイブを掴む。
すまない、と小さな声で謝るザクロに、カイコクは無理矢理笑みを作った。
「…お前さんなら、大丈夫…だから」
へにゃ、と笑うカイコクを抱きしめる。
「ぁうっ、ふ、ぐ、んんぅ!!」
「…すまない、鬼ヶ崎…っ!」
奥に奥に突き刺し、ポロポロと涙を零すカイコクに囁き続けた。
コツン、と結腸に押し当たった所で手を離す。
「…鬼ヶ崎?」
「…にゃ、あ……」
熱い息を吐きながらカイコクが鳴いた。
へたりと今まで動いていなかった猫耳がへたっていて、無事に作動したのだな、とホッとする。
「お疲れ様でした、忍霧様。もう結構でございますよ」
「…は?」
パカのそれにザクロは呆けた顔をした。
だって、ここで彼女を手放すということは、それは。
「…。…鬼ヶ崎は俺のものだ」
「…おや」
ザクロは彼女を抱きしめながらマスクをずらし、口付ける。
「ぁふ、にゃ、ぁん、にぃ、ん、ぅあ…」
「…鬼ヶ崎様」
「…?!にゃ、に"ぁああっ?!!」
パカがバイブのスイッチを作動させた。
キスを止めたカイコクが泣きじゃくり、嫌々と首を振る。
いつの間に付けられたのだろう首輪の鈴がチリチリ鳴った。
喧しくてたまらない。
「…貴様!」
「鬼ヶ崎様へのお仕置きはまだ終わっておりません故」
騒音をかき消すよう怒鳴り睨むザクロにパカがしれっとそう言った。
ふざけるな、と思いながらザクロは自身を取り出す。
にゃあ、とか細い声が彼女の白い喉から震え出た。


今日は猫の日だ。
それも、スーパー猫の日。

おかしな行為をしていると気づかないのはその言葉と強すぎる脳波に充てられているのかそれとも。


可哀想な猫の行く末は、チリンと鳴った鈴だけが知っている。

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