司冬ワンライ・ハンドクリーム/大切

「司先輩」
「む。おお、冬弥!」
息を切らせて走ってきた可愛い恋人に、こちらもぶんぶんと手を振った。
久しぶりにお互い放課後何もなかったので一緒に帰ろうということになったのである。
気になっていた新刊があったので、一緒に本屋に行くのも良いなぁというのもあった。
所謂、放課後デート、だ。
「お待たせしてすみません」
「なぁに、構わないぞ!それに、待つのもデートの内、だろう」
はっはっは!と笑えば冬弥も小さく肩を揺らした。
本当に楽しそうな表情をするようになったな、と思う。
「では、帰るか!…そうだ、今度ある舞台の原作小説が…」
「…あの」
冬弥がおずおずと何かを言いたそうにこちらを見た。
どうかしたのかと聞けば、ハンドクリームが、と言う。
「ハンドクリーム?」
「はい。普段から使っているハンドクリームがそろそろ無くなりそうで…。買いにいこうかと思っていたんです」
「おお、そうか!ならば、一緒に買いにいこう」
「ありがとうございます。…楽器を触らなくなって久しいのですが、小さい頃からしていた習慣はなかなか抜けなくて…」
申し訳なさそうに言う冬弥に、司は「何を言っているんだ!」と笑った。
綺麗な手をそっと握る。
幼い頃から変わらない、綺麗な手だ。
音を紡ぐ、冬弥にとって大切な手。
「冬弥が大切にしてきた手だ。それに、今は夢を掴む為の手だろう。オレは、そんな冬弥の手を愛おしく思うよ」
握った手に口付ける。
綺麗で、彼自身が嫌いになったかもしれなくても、司はこの手が好きだ。
大切な、音楽を求める手だから。
「…司先輩」
「さあ、冬弥の大切な手を守る、ハンドクリームを買いに行くぞ!」
「はい」
冬弥の手を握る。
司の手で守るように。

(大切な人の、大切なものを守りたいのは、恋人として当然だろう!)



「先輩の手は大きいですね」
「む、そうか?」
「はい。暖かくて大きくて…俺は、好きです」

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