司冬ワンライ/デュエット・舞台(ステージ)

よく分からない夢をみた。
「…うーん、さっぱり分からん」
朝起きてから家を出るまで考えていたがついぞ答えが出ず、司は考えることをやめる。
夢とはそういうものだと言われてしまえばそれまでだ。
「何故、ストリート音楽だったんだろうなぁ」
疑問は言葉となって口から出る。
夢の中で司は可愛い幼馴染兼後輩であり恋人の冬弥とその相棒でもある彰人、それから同じショーキャストの類と共にストリート音楽でユニットを組んでいたのだ。
彰人や冬弥とは文化祭で共に歌ったこともあるしストリート音楽での実力があるのも知っている。
類は歌も上手いし、ユニットを組むのも分からないわけではなかった。
司が分からなかったのは自分が触れた事もないストリート音楽でユニットを組んでいたことである。
もちろん、冬弥の影響が色濃く出たのだろうけど。
「…司、先輩?」
「…ん、おお、おはよう冬弥!」
「…おはよう御座います。どうかされましたか?」
首を傾げる冬弥に、顔に出ていただろうかと、司は心配させないように笑う。
「いや、大したことではない!実はな、今日夢で冬弥とストリート音楽ユニットを組んでいたのだ!あと、彰人や類も一緒にな!」
「…!そうでしたか」
司のそれに、冬弥がホッとしたように微笑んだ。
「夢とはいえ、冬弥と共にステージに立つのは嬉しかったのだが…何故ストリート音楽だったのかが疑問でなぁ…」
「…。…俺が、ミュージカルのイメージがないからでしょうか」
「そうかもしれんが…いや、結婚式でショーキャストを務め上げたのだろう?なら、夢の中のオレはオレがやったことのない音楽に触れてみたかったのかもしれんな!」
「…司先輩」
「実際、ストリート音楽は冬弥が触れてくれるまで知らなかった。新たな世界に触れる事が出来たのは冬弥のお陰だな!」
司はそう言ってぴょいとコンクリートブロックの上に飛び乗る。
それから冬弥に向かって手を差し出した。
「これからも、共に色んな音楽に触れていってくれないか?」
「…!はい!」
冬弥が嬉しそうに微笑み、その手を取る。
「実は、俺も司先輩と同じ夢をみたんです」
「何ぃ?!そうなのか?!」
「はい。…夢の中とはいえ、司先輩と共に歌える自分は羨ましいと思いました。なので」
冬弥が美しい笑みを浮かべた。
桜の花びらがふわりと舞う。
「…現実の俺とも、歌ってくれますか?」



キラキラ光る微笑みは、いつか魅た夢と同じ。
「もちろんだ!さあ歌うぞ、冬弥!」
「…っ!」


歌声が響く。
司の声と冬弥の声が溶け合って、春の空に染み渡る。


(君がいれば、どんな場所だってステージに早変わり!)


司と冬弥の即席舞台は大勢の観客を呼び、流石に注意されてしまった(主に彰人に)のはまた別の話。

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