転生しない少年たち

「冬弥ー。またせ…何読んでんだ?」
「…彰人」
彰人の声にふわりと笑った冬弥が読んでいた本の表紙を見せた。
「『星ノ少女ト幻奏楽土』…珍しいな、ファンタジーか?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるな」
曖昧な冬弥のそれに彰人は首を傾げる。
曰く、その本はいくつかの章で構成されているらしく、今は6番目の話を読んでいるらしかった。
普段なら興味もないのだが、曖昧に濁されたせいで妙にストーリーが気になってしまい、「どんな話なんだよ」と聞いてしまう。
冬弥も読んでいる本に興味を持たれるのは純粋に嬉しいのか、快く教えてくれた。
「ある少女が、友だちの少女を好きになってしまった。その事実に絶望した少女にそのセカイのステラシステムが囁く、『不幸ヲ、サヨナラ』と」
冬弥がきれいな声で語りだすそれはどこか淋しげで。
彰人は口を噤む。
「ステラシステムは少女を少年に転生させたんだ。最初は幸せだった彼女たちだが違和感を覚えるようになる。それは本当に幸せなのか、と」
「…くだんねぇな」
「…え?」
思わず呟いた彰人のそれに、冬弥は首を傾げた。
だから、と彰人は頭を掻く。
「その、少女…だっけ?転生した方。相手に想いを伝えたわけじゃなかったんだろ」
「…そうだな。尋常じゃない片思い、とあるから恐らくは」
「伝えてみりゃ良かったじゃねーか。口にしなきゃ伝わんねぇこともある」
「…!…そう、だな」
彰人の言葉に、冬弥は目を見開き、それからふわりと笑った。
やはり伝えて良かった、と思う。
冬弥が隣で笑ってくれる、その幸せを手に入れることが出来たのだから。
絵空事に恋する気はなかったし、友だちのままで、相棒のままでいる気もなかった。
平坦に単調に聴き飽きたポップスのように、ただただ流れていく偽りの日常なんかいらない。 
彰人が望むのは胸が高鳴って常に進化していく最高潮の音楽(ストリートミュージック)と素晴らしい仲間だ。
こはねと、杏と、それから。
「行くぞ、冬弥」
目の前の相棒に手を差し出す。
ああ、と迷い無く手を取ってくれたのが嬉しかった。
今は、相棒としてだけではなく、恋人としても隣に立ち続ける。
仲の良い友達、はもう脱したのだ。
だから、もう悲しませたりなんかしない。
転生少年みたいには、もう。

(誰かの幸せを願うなら、その隣にオレがいたって問題ないだろ!!)



「…彰人も、ステラシステムに抗いそうだな」
「…。…そもそもステラシステムなんかに縋らねぇっつーの」

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