続 お誕生日会議!

「…よぉ、冬弥」
「…彰人」
朝一番、前を歩く冬弥に声を掛ければ彼はふわりと微笑んだ。
いつもの朝、いつもの通学路だ。
だが、今日は。
「…ん」
「え?」
カバンの中から小箱を取り出し、彰人はそれを彼の前に差し出した。
「…これは」
「まだ見んなよ。…開けるのは後、な」
小さな箱のリボンに手をかけようとする冬弥を止め、その手を取る。
「…彰人?」
「…誕生日だろ、今日」
首を傾げる冬弥にそう言えば、ややあってから彼は笑った。
「…プレゼント、か」
「…まあな」
嬉しそうな冬弥に、それだけじゃねぇけど、という言葉は飲み込み、代わりにその指に口付ける。
少し柄ではないな、などと思いながら。
「…!」
「誕生日おめでとう、冬弥」
「…ありがとう、彰人」

(その、幸せな表情が見れただけで、幸せだ)



「冬弥!」
司が手を振る。
その声に姿を認めた冬弥が僅かに手を振り返した。
「…司先輩」
「すまない、待たせてしまった」
「いえ、大丈夫です」
首を振る彼に司もホッとする。
隣に座り、作ってきた弁当を開けた。
「…!これは」
「今日は冬弥の誕生日だろう?一緒に食べようと思って作ってきたんだ」
「ありがとうございます、司先輩」
冬弥がふわ、と笑う。
相変わらず綺麗な笑みだ、と思った。
「…そうだ、それから」
司はカバンを探り、小さな箱を取り出す。
驚く彼に手渡し、まだだぞ、と己の手を被せた。
「サプライズプレゼントだ。…放課後まで取っていてほしい」
「…はい」
微笑む彼に司は頷き、手を離す。
そのままその手を髪に持っていき、キスを落とした。
「…誕生日おめでとう、冬弥」
「ありがとうございます…司先輩」

(微笑む彼は、幼い時のままで。暖かい気持ちになった)



類は図書室の扉を開ける。
その姿を認め、類は手を挙げた。
「やあ、青柳くん」
「神代先輩!」
カウンターにいた冬弥がパッと表情を和らげる。
可愛い人だな、と類は笑い、扉を閉めた。
「どうかしたんですか?」
「なぁに、今日は君の誕生日だろう?ほら、誕生日プレゼントだ。仲間たちと共に、楽しく開けてくれたまえ」
「…!ありがとうございます」
大きなプレゼントボックスを渡せば、彼は嬉しそうに微笑む。
これが危ないものではないと分かっているからだろう。
「青柳くんは音に敏感だと聞いたから、クラッカー系は入れていないよ。…クラッカー系はね」
「他の仕掛けがあるんですね。…楽しみにしておきます」
冬弥がにこりと笑った。
もう少し驚かせたい、と類はカバンを取ろうとする彼の手を取る。
そのまま彼の手首に口づけた。
「…っ?!」
「ふふ、驚かせたかな。お誕生日おめでとう、青柳くん」
パチン、とウインクをした類は彼の手に小箱を置く。
「これを開くのはまだ後だよ。楽しみにしていてほしい」
「はい。…あの」
冬弥が類を見上げる。
類はその言葉を聞いて、ああ、と微笑んだ。
「…ありがとうございます、神代先輩」
(少ない言葉でもわかる、自分の演出が成功したのを!)

「…と、いうのはどうだい?」
「どうだい、じゃないが??」
「抜け駆けはなしっつったんですけど?」
ぴっと人差し指を出す類に、司と彰人が言った。
おや、と笑う類は、提案を却下されているにも関わらず、残念そうな素振りもない。
「最初に抜け駆けをしたのは東雲くんではなかったかな」
「…ぐっ…」
にこにこと突っ込まれた彰人が悔しそうに黙り、確かになぁ、と司は上を向いた。
「ちなみに、司くんも僕より先に抜け駆けした時点で同罪だよ?」
「何ぃっ?!」
「つうか、そーいうのは駄目だっつったじゃないスか」
「なっ、彰人も変わらんだろう!」
「司センパイよりマシだっつー…」
わあわあと言い合う(主に司が)2人に、やれやれと類は肩を竦める。
と。
「…あの」
す、と綺麗な手が上がった。
全員でそちらを見れば、戸惑ったような冬弥がいて。
「…何故俺はここに呼ばれたのでしょうか?」
首を傾げる冬弥に、ああ!と司が口を開く。
「誕生日会の主役は冬弥だろう?去年はある意味失敗だったからなぁ。今年は、もっと素晴らしいパーティーにしたい。だからこそ、主役であるお前にも意見を聞きたいんだ」
「…司先輩」
自信満々な司に、冬弥はふわ、と微笑んだ。
そんな彼に小さな声で彰人が「…オレは止めたからな」と囁く。
「そう、なのか?」
「普通は誕生日の主役にパーティーの内容を聞かせはしねぇだろ」
「ふふ、僕は面白い試みだと思うよ?」
呆れた表情の彰人に、類は楽しそうだ。
予想もつかない司の発想は割と楽しいらしい。
「はーっはっはっは!そうだろう?!類ならそう言うと思っていたぞ!」
「信じてもらえていて嬉しいよ、僕らの座長さん?」
「いや、会議しろよ」
楽しそうな先輩2人に、彰人が心底疲れた声で突っ込んだ。
冬弥が小さく笑う。
「そういや、冬弥はどれが良かったんだよ」
「…え?」
そんな彼に彰人が問うた。
首を傾げる冬弥に、司も類もうんうんと頷く。
「そうだな!冬弥、冬弥はどれが良かったんだ?」
「僕も聞いてみたいね、青柳くん」
3人に聞かれ、冬弥は少し考え込むように下を向いた。
そうして。
「俺は…全て良かった、と思います」
「ん?」
「お?」
「は?」
まさかの回答にぽかんとする3人に、冬弥は目を細める。
「彰人といつも通り登校する朝も良いし、司先輩とのお昼も良かったです。神代先輩と過ごす放課後も良かったですね」
「…つまり…」
「…なるほど。青柳くんは、意外と強欲、という訳だ」
「そう言うことになりますね」
類の言葉に冬弥はにこりと笑った。
その様子に思わず司と彰人が顔を見合わせ、息を吐く。
「…ったく、それでこそオレの相棒、だな」
「まあ良いではないか!冬弥が望むのであればオレは全力で叶えるぞ!」
「勿論、僕も大歓迎さ」
類もにこりと微笑み、司や彰人と共に冬弥に向かって手を差し出した。


なんといっても大切な、年に一度、青柳冬弥の誕生日!

その為ならば、何だって!!


(毎年恒例になりつつある、本日お誕生日会議!)


「…あ、会議のお茶請けにクッキーを作ってきたんだが…」
「…へぇ…美味そ…って、待て、冬弥が??」
「青柳くん、甘いものは苦手では……?」
「そもそも、冬弥は料理できたのか?!!一番のサプライズなんだが!」

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