司冬ワンライ/○○しないと出られない部屋

「…ん…」
ぼんやりと目を開き、司は身体を起こそうと目をこする。
次第に意識がはっきりしてくると同時に、部屋の中の様子がおかしいことに気が付いた。
「…ん??」
明らかに自分の部屋ではない。
寧ろ見たこともない部屋で、司は勢い良く身体を起こした。
「…なー?!!どこなんだ、ここは!!」
「…司先輩?!」
叫ぶ司に、呼応する声がある。
振り向けば愛しい恋人である冬弥が心配そうにこちらに駆け寄ってきた。
「冬弥?!何故ここに!」
「分かりません。俺も目覚めたらこの場所にいて」
「む、冬弥もそうだったのか。して、この部屋はなんなんだ…」
困った様子の冬弥に司は考え込む。
見たところ、何の変哲もない部屋だ。
ベッドが一つ、他には何もなく、壁から天井から全て真っ白である。
不思議なのは扉もないことで、誰がどうやって閉じ込めたんだ、と首を傾げた。
急にこんな場所に飛ばされるなんて、セカイでもあるまいに。
「見たところ扉もなさそうだし…。…冬弥?」
「っ、え?」
壁を見つめながら話しかければ冬弥がびくっと肩を揺らした。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「…いえ。……何も」
「そうか?なら良いんだが…。無理はするんじゃないぞ」
「はい、ありがとうございます。司先輩」
冬弥がふわりと微笑む。
相変わらず可愛いなぁと司も笑った。
「よし、ではもう少し調べてみるか」
「…そう、ですね」
よっとベッドから降りて壁を触る。
特に何の変哲もない壁だった。
何の変哲もない、ということは扉もない、ということである。
「…司先輩!」
「うぉっ?!どうした、冬弥?!」
急に冬弥が大きな声で呼んでくるから何かあったのかと大急ぎで彼のそばに向かった。
見たところ何もなさそうで安心する。
「何かあったのか?」
「いえ、違うんです。その…歩き回るのは危ないかもしれないと、思って」
「ふぅむ、確かに一理あるかもなぁ」
冬弥のそれに頷けば彼はホッとしたように微笑んだ。
その表情に一瞬首を傾げたが気のせいか、とベッドに腰掛ける。
「ならば、今後の対策でもするか!…時間経過でどうにかなるかもしれんしな!」
「…はい」
明るく笑う司に、冬弥も柔らかい笑みを浮かべた。

司は知っている。
扉はとうに開いていることに。

司は知っている。
冬弥がわざと壁から遠ざけたことに。


ポケットにいつの間にか入っていた紙の内容を思い出し、さていつ言うかなぁと司は小さく笑みを浮かべたのだった。

(真面目で可愛い恋人の、嘘と迷いと言えない本音で揺れている様をもっと見ていたいだなんて、部屋から出る条件を満たしてはいないだろうか?)


(だってここは、『愛されている』と感じないと出られない部屋!)

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