司冬ワンライ/ハグ・おあずけ

「司先輩。夏の間はハグはなしにしましょう」
冬弥からそう言われて司は固まってしまった。
一体何故だ。
頭の中がぐるぐるして考えがまとまらない。
確かに司はスキンシップは多い方だが、冬弥だってそれを嫌がらなかった。
今までそんなこと言わなかったのに…!
「…冬弥、理由…そうだ、理由はなんだ?」
慌てつつも努めて冷静に問う。
冬弥は言葉が少ない方だ。
だからきっと理由があるはずだと…思ったのだけれど。
「…理由…ですか。…そうですね…」
司のそれに冬弥は少し考えてから口を開く。
「…暑いから、です」
「…ん?!」
予想外の答えに司は驚いた。
単純明快、少し考えればわかるそれ。
「そ、それだけか?」
「はい。…いえ、この答えは少し違いますね。暑くないか、と問われたからです」
「誰にだ?!」
「暁山達に。…仲が良いのは構わないが、暑くないのか、と」
冬弥の答えに思わずぽかんとする。
そういえば、少し前に学校で冬弥に抱きついたことがあったっけか。
どうやらそれを見られていたらしい。
暑くないかと聞かれたのは善意でしかないのだろう。
…もっとも、面白半分もあるだろうが。
「白石も小豆沢に抱きつくのは夏場は躊躇すると言っていたし、草薙もショーキャスト仲間が抱きつくのを迷っていると言っていました。俺は暑くはなかったのですが、先輩が暑いかもしれないと思いまして…」
「…えむのやつ、あれで迷っていたのか…。…ってそうではなく!」
意外な事実に少し驚いたが今気にすべきはそこではなかった。
「冬弥は暑くなかったのだろう?!オレも暑くはない!むしろ大歓迎だ!」
「…司先輩」
「それに、暑さよりも冬弥とのハグをおあずけされる方がオレはツライ。…撤回してくれないか?」
「…。…分かりました」
冬弥がふわりと微笑む。
撤回宣言とも言えるそれに嬉しくなって抱きつこうとした司を、細い指が止めた。
「では、外ではなしにしましょう」
「む?!…ちなみに学校は…」
「外の範疇になりますね。…では」
「待て、待て待て冬弥!それは実質ハグおあずけに当たる…冬弥ー?!」
叫ぶ司に冬弥が足早に去っていく。
司は知らない。
冬弥がほんの少しだけ意地悪な顔をしていたのを。
司は知らない。
冬弥が、ハグを見られて恥ずかしかったということを。
 
冬弥は知らない。

おあずけを食らった司は大層面倒くさいということを!!


(暑さなんて関係なく熱いのを見せつけてやれば良い、なんて言われて絆されるまであと何日?)

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