ナナミ誕

今日はナナミの誕生日なんだ!とチヒロが言い出し、それを聞いた彼はきょとんとした。
「えっと…おめでとう御座います」
「あら、ありがとう」
ぺこりと頭を下げる彼、駆堂シンヤにナナミはくすくす笑いながらお礼を告げる。
なかなか如何して彼は素直らしかった。
同じ大学1年生なのにこの違いは何なのだろう。
「でも…歳は取りたくないって思っちゃうわよねぇ。こう考えちゃうのも歳かしら」
「…。…そこまで…思うほどではないと…思いますけど」
少し考えながらシンヤが言う。
社交辞令というわけでもなく、素直な言葉なようだが、如何言えば良いのか分からなかったようだ。
確かによく知らない相手に返す言葉としては最適解かもしれない。
「そう?アタシ綺麗?」
「…何かそう言う妖怪いたよな」
笑ってみせるナナミに誰かがぼそっと言う。
勿論犯人は分かっているので後でどうにかするとして、と物騒な思考をするナナミに、シンヤは柔らかく笑った。
「…綺麗、という言葉が最適かどうかは分かりませんが、見た目だけではなく中身も素敵な人だというのは伝わります」
「…完璧な回答ね…」
ナナミのそれにシンヤが首を傾げる。
それに、ありがとう、と笑い、ふともう一人の彼を思い出した。

「ねぇ、鬼ヶ崎クン。アタシきれい?」
地下探索をしながらそう聞けば彼ははぁ?と言う顔でこちらを向いた。
忙しいのに何を、という表情を隠さない彼、鬼ヶ崎カイコクは少し考えるように上を向く。
彼の性格上、適当に発言を流すようなことは出来ないのだろう。
流すフリをして、きちんと考えている。
そういう人なのだ、彼は。
「そうさなぁ。確かに兄さんは綺麗だが…。…そりゃあ中身が伴ってるからじゃねぇか?見た目は別嬪さんでも中身が最悪じゃあ話になんねェからな」
彼がお面の紐を揺らして軽く笑う。
ナナミの真意を分かっていて。
地下生活で少し疲れたナナミの真意を。
「ま、俺が綺麗だって言うより自分の方がよく分かってんだろ?」
兄さん、とへらりと笑うカイコクに、ナナミはそうね、と笑ったのだった。


「…やっぱり似てるのかしら」
「え?」
ナナミのそれにシンヤは首を傾げる。
何でもないわ、と笑い、誕生日も意外と良いかもしれないと思った。


(カイコクの優しさと、シンヤの優しさが似ていることに気付けた、それだって素敵な誕生日プレゼント!)


「ところで、アタシを口裂けババア呼ばわりしたのは誰かしら?」
「ババア呼ばわりはしてな…あ」

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