司冬ワンライ/汗・アイスクリーム

暑い。
梅雨が終わったばかりなのに、ただただ暑かった。
「…司先輩、大丈夫ですか…?」
「……おお、冬弥か…」
冬弥が心配そうに聞いてくれたのに、司はぐったりと返事をするしかなくて。
それでも何とか先輩としての面子を保とうとひらひらと手を振った。
それでも暑いものは暑いのだけれど。
「…冬弥は暑くないのか?」
「…そうですね、暑い、とは思うのですが…あまり汗をかかない質のようで…」
少し困ったように冬弥が言う。
発汗が良い司にとっては羨ましい話だった。
「まあ冬弥は、歌っている時の方が汗をかいているかもしれないな」
「そうでしょうか?」
「ああ!努力が詰まった、とても爽やかな汗だと思うぞ!」
笑う司に冬弥は驚いたように目を見開き、それから「ありがとうございます」と嬉しそうに言う。
彼が嬉しそうにしているのは司も嬉しかった。
やはり冬弥は笑っている方が良い。
いつもならそれで良かった…のだが。
「…冬弥の笑顔を見たところで、暑いのは変わらんな…」
司は小さく息を吐く。
心は満たされたがやはり暑いものは暑かった。
こればかりはどうしようもない。
「先輩、あそこにアイスクリーム屋さんがあります」
「何っ?!」
冬弥が教えてくれて司は目を見張った。
有名なチェーン店が新店舗を構えたというのは知っていたがまさか近くだったとは。
「よし、一緒に行かないか、冬弥!」
「…はい、是非」
くすくすと冬弥が笑う。
俄然元気になった司は、冬弥の手を取り、アイスクリーム屋を目指した。
「先輩、あの…手…」
「?ああ、熱かったか?すまない。だが、オレは出来るだけ冬弥と手を繋ぎたいんだが…」
「…!…俺も、同じです、先輩」
手をつなぐのを断られてしまったとしゅんとする司に冬弥が微笑む。
それを聞いた司は太陽より眩しい笑みを冬弥に向けた。

アイスクリームなんて溶かしてしまいそうな暑い日だって何時だって、二人は太陽より熱いのだから!

「…む…どれにするかな…。…冬弥は?決まったのか?」
「はい。レモンシャーベットにしました。…司先輩に似ているので」

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