ラーメンの日のしほはる

「…ねぇっ、日野森さん!」
「……桐谷さん?」
遥に突然呼ばれ、志歩は不思議に思いながらも振り向いた。
さっき、クラスメイトであるみのりと「今日は生配信の打ち合わせなんだ!」と別れたばかりだ。
志歩もバンドの練習があるから、そこに関しては日常の話…だったのだけれど。
焦ってきたのか、綺麗な髪を乱して息を吐いた遥が、「良かった」と呟く。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「うん、あのね。もし良ければ一緒にラーメン屋さんに行きたいな、と思ったんだけど…どうかな?」
「…え?」
遥のそれに志歩は目を見開いてしまった。
まさか遥からそんな誘いが来るとは思っていなかったから。
…アイドルもラーメン食べるんだなぁ、なんて突拍子もないことを考えてしまった。
「…えっと、日野森さん?」
「え、あ、ごめん。…私は大丈夫だけど、練習の後になるからちょっと遅くなるかも。それでも良い?」
「…!うん、大丈夫だよ!じゃあ詳しいことはまたあとで連絡するね!」
ふわ、と笑った遥が手を振って元来た道を駆けていく。
珍しいものをたくさん見たな、と思いつつ、志歩も仲間が待つ教室へと向かった。



それから暫くして。
「…桐谷さん」
「日野森さん!」
待ち合わせである駅前に着くと遥が嬉しそうに手を振る。
「待たせてごめん」
「ううん!私も今来たところなんだ。…ふふ、ラーメン屋さんって初めて」 
ニコニコと楽しそうな遥に、やっぱり、と思いつつなら何故、と首を傾げた。
「…ねぇ、どうしてラーメン屋さんに誘ってくれたの?」
「え?」
志歩のそれに遥はきょとんとしてから、少し恥ずかしそうに、あのね、と言う。
「…今日、ラーメンの日なんだって。それで、天馬さん達から日野森さんはラーメンが好きって聞いたのを思い出して。…一緒に行ってみたいなぁって思ったの」
「…!」
照れたように笑う遥に、志歩は目を丸くしてしまった。
まさかそんな風に思ってくれていたなんて。
「…そっか。じゃあ私のオススメのラーメン屋さんに連れて行ってあげる。ちょっと量が多いから覚悟してね」
「…!うん!すごく楽しみ!」
志歩の挑戦的な言葉に遥は無邪気に笑う。
こんな日があるのも、たまには良いなぁと思った。


小さな記念日を、嬉しそうな貴女と共に



(ペンギンの日はあるのかな、なんて隣で笑う遥を見て志歩は目を細めた)



「…そういえば、桐谷さんって糖質制限してるんじゃなかったっけ?大丈夫?」
「うん、平気。…日野森さんが連れて行ってくれるんだもの。ちゃんと美味しく食べられるように調整してるよ」
「…。…そっか」

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