司冬ワンライ/遊園地・着ぐるみ

ひょんなことから、フェニーくんの中に入ることになった。
「司さん、いいですか?フェニーくんはあんなにアクロバティックには動かないです。後、声も抑えてください」
「わ、分かった」
「それから、私達の時みたいにくれぐれも喋っちゃ駄目ですよ」
フェニーくんのファンだという志歩から釘を刺され、司は勢いに圧されつつ頷く。
ちなみに、私達の時、というのは志歩たちに会った時に思わず声をかけてしまった時の話だ。
アクロバティックなフェニーくんは子ども相手では人気なのだが、志歩のようにフェニーくんの純粋なファンには許されなかったのだろう…世間的にはあれはあれで有り、と言われているらしいが。
「…フェニーくん?」
と、聞いたことのある声が聞こえる。
(…冬弥か?!)
小さく首を傾げる、目の前にいる愛しの人。
「フェニー!」
パタパタと手を振ってみると彼はふわりと微笑んだ。
全力で声をかけたくなったが、志歩からのそれを思い出し、グッと耐える。
「以前見たものとは違う…。…服に星がついているのか、可愛いな」
「フェニフェニー!」
「俺の好きな人も星がよく似合う人なんだ。お前と一緒だな」
小さく笑い、冬弥が手を握ってきた。
え、と思っていればしぃ、と指を口元に立ててくる。
「天馬司、という人なんだが…お前も知っているだろう?この遊園地のショーキャストを勤めている。たくさんの人を笑顔にする、という夢を持っている、素晴らしい人だ」
「フェニー?!」
「人としてもとても尊敬しているが…そうだな、有り体な言葉で言うが『愛している』んだ。ふふ、内緒にしておいてくれるか?」
柔らかく笑う冬弥に、司は身体を動かして肯定を示した。
ありがとう、と笑った冬弥が少し向こうを見る。
どうやら時計を見ているらしかった。
「…っと、そろそろショーが始まってしまう。聞いてくれてありがとう、フェニーくん」
「っ、フェニー!」
手を振り、ステージの方へと冬弥が歩いて行く。
そういえば、彼にショーチケットを渡していたっけか。
交代の時間を無線から告げられ、控室へと戻った。
「…あ、いた!何してんの、司。そろそろショーが始まる…どうかした?」
パタパタと走ってきた寧々が首を傾げる。
「…はっ、えっ?!何がだ?!」
「うるさ…。…いや、顔真っ赤だから。何かあったのかと思って」
眉を顰めた寧々がペットボトルを手渡し、「早くしないと出番だから」とまた駆けて行った。
それをぼんやり見送りながら、司は冷えたペットボトルを顔に当てる。
熱は冷めることなく、大きな溜め息だけが霧散した。

(まさか、彼からあんなストレート愛の言葉を聞けるだなんて思わないだろうに!)


(着ぐるみだからこそ伝えられる、真っ直ぐな愛言葉)

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