司冬ワンライ・鼻歌/ハーモニー

機嫌が良いと歌が出てくるのは当然の現象らしい。
何故か、なんてそんなものは分からないが…とにかく、図書室で本の整理をしているらしい彼の機嫌が良いのは明らかだ。
「…~♪」
彼の綺麗な高音がメロディだけ聞こえてくる。
そういえばまだ練習途中だと言っていたっけ。
歌詞はまだ曖昧なのかもしれないと思った。
何はともあれ、せっかく機嫌良く本の整理をしている彼の邪魔をするのもなぁ、と司は本棚に背を預ける。
待ち合わせをしていたわけではないから、しばらく待ってみることにした。
彼の歌詞のない歌が耳に心地良い。
何だか懐かしい気もして、司は無意識に口角を緩ませた。
司は、冬弥の歌が好きだ。
昔聴いた優しい歌声も、今の彼が仲間と歌っているそれも。
全てが彼の歌だし、唯一無二だと思う。
哀歌も、祝歌も、子守歌すらも。
司にとっては愛おしい冬弥の歌、だ。
「…~♪」
サビは聴いたことがある、と司はそっとメロディを風に乗せる。
流れる歌声は、冬弥のそれと相まって思ったより響いた。
「…っ、司先輩?!」
「しまった、バレてしまった」
驚いたような彼に苦笑しつつ司は手を小さく挙げる。
「作業が終わるまで待っているつもりだったんだが…冬弥の歌を聴いたら我慢できなくなってしまった」
「…司先輩…」
「共に歌って構わないだろうか」
「…ぜひ」
優しく微笑む冬弥に司も笑みを浮かべた。
冬弥の奏でるメロディに司も音を乗せる。
歌詞のないハーモニーは、秋の空に柔らかく響いた。


「…しかし…鼻歌を聴かれていたのは、少し恥ずかしいですね」
「そうか?冬弥の良い感情が手に取るように分かるから、オレは好きだぞ」

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