司冬ワンライ/秋の味覚・両手いっぱい

収穫の秋という言葉がある。
ぶどうや梨、栗、さつまいも、もう少しすれば林檎に蜜柑も採れる、そんな季節。



「なぁ、冬弥。果物で好き嫌いはあるか?」
「…いえ、特には。あまり甘過ぎるものでなければ食べられると思いますが…」
「…!そうか!なら良かった!」 
不思議そうな冬弥に、司は大きく頷いた。
苦手なものがあるならば聞いておこうと思ったが…それならば良かったと読んでいた記事を冬弥にも見せる。
「…『秋の、味覚狩りツアー』、ですか」
「ああ!せっかくだから、共に行かないか?!」
「はい、是非ご一緒したいです」
誘う司にふわふわと冬弥が同意を示した。
良かった、と笑えばその彼がこてりと首を傾げる。
「?どうした、冬弥」
「いえ…何故司先輩が俺を味覚狩りツアーに誘ってくださったのか不思議になって…」
素直に疑問を口にする冬弥に、司は明後日を向きながら頭を掻いた。
こんな恥ずかしい理由は内緒にしておこうと思ったが…まあ良いかと口を開く。
「…以前、冬弥はチームの皆でキャンプに行ったと話していただろう?」
「はい、共通のイメージを持つために、と」
「それだ」
「…それ、とは…」
まだピンと来ていない冬弥に司は苦笑いを浮かべた。
「チームの皆とは共通イメージを持つことが出来ているのに、恋人であるオレだけが思い出を聞くだけだなんて悔しいだろう?」
「…!」
「まあ、そんな小っ恥ずかしい理由だ。冬弥と共に、オレと冬弥、二人初めての思い出を作りたい」
司の言葉に冬弥が綺麗な目を見開く。
それからややあってふわりと笑った。
「…俺もです、先輩」
ぎゅ、と手を握ってきてくれる冬弥に司はそうか!とそのまま引っ張って抱きしめる。
「わ!」
「二人で良い思い出を作ろう!秋の味覚を沢山沢山採ろう!なぁ、冬弥!」
「はい」
嬉しそうな冬弥の声が腕の中で聞こえた。
季節は秋。
美味しいものがたくさんたくさん採れる季節!


「あははっ、おにーちゃんってば、もう秋の味覚が持てないくらい両手いっぱいに溢れてるよ?」
「…!咲希さん!」
「何を言う。両手いっぱいの愛、も、両手いっぱいの秋の味覚も、全て持ってみせるぞ!!」

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