夕暮れのしほはる

夕暮れの教室

近くの小学校から下校を促す放送が小さく聞こえる

運動部が部活を頑張る声も少なくなってきた

少しノスタルジックに感じるシチュエーション

そんな、中で



天使が、寝ていた




「…びっくりした」
忘れ物をした、とセカイに行ってから気づいた志歩は、練習が一段落した後、一旦学校に戻った。
まだ部活の生徒も残っているし、教室にいたって大丈夫だろう…そう思っていたのだけれど。
忘れ物を取り、戻ろうとした志歩は通り過ぎようとした一歌たちの教室に人影を見つけた。
それはまあいるだろうな、と思いながら横目で見た確認すれば見たことある青髪が夕陽にキラキラと反射していて。
思わず教室に入ってしまった志歩は、窓際の席、壁にもたれ掛かるように座りうつらうつらしていたのが遥だとしっかり確認できたのである。
珍しいな、と思いながら志歩は座り込んだ。
いつもの綺麗な青い瞳は伏せられ、胸が小さく上下している。
夕陽に照らされた彼女は有り体に言うなら、綺麗だなと思った。
体感にして何分経ったのだろう、しばらく眺めていたが、流石に戻らなければと立ち上がろうとし…遥を起こした方が良いだろうかと止まる。
彼女にも練習があるだろう。
遅くなればメンバーの誰かが迎えに来るだろうが…疲れているかもしれないのにわざわざ起こすのは忍びないな、とも思う。
さてどうしようかと少し上を向き、志歩は改めて立ち上がった。
窓を開けると秋風がふわりと志歩の髪を撫でる。
夕陽は僅かに夜に溶け、その静かで柔らかい青は彼女の瞳によく似ていた。
「…ん…」
「…。…あ、起きた」
小さな声に振り向けば遥が僅かに目を開けこちらをぼんやり見つめていて。
「おはよ、桐谷さん」
「…。…日野森、さん…?」
ぽや、とした声はいつもの完璧な彼女からは想像が出来なくて少し笑ってしまう。
「うん、日野森さんだよ」
「…うん?え、あれ…?」
答えてあげたのに遥は困惑したように志歩を見つめ…数秒も経たぬうちに驚いた様に目を丸くさせた。
「…日野森さん!」
「だからそうだってば」
くすくす笑いながら志歩は夕陽に照らされていた髪を一房手に取る。
「流石に起きた?桐谷さん」
「…うん、ばっちり」
恥ずかしそうに笑う遥に、それは良かったと志歩も笑った。
「今日練習ないの?」
「…みんな部活や委員会があるから、少し練習時間を遅らせたの。宿題は終わらせちゃったし…まだ時間があると思っていたら、つい…」
「…なるほどね。珍しい所を見ちゃった訳だ」
「そうなるかな。…みのり達には内緒にしてくれる?」
微笑む彼女を見、そうだなぁ、と志歩は考える振りをする。
何だか遥と秘密が出来たようで嬉しかった。
「…じゃあ、今度の放課後、限定フェニーくんのキーホルダーを一緒に買いに行ってくれるなら」
「…!…分かった。約束ね」
夕陽が見劣りするくらいの柔らかい笑みで遥が微笑む。


放課後、昼と夜が交差する教室で


志歩は天使と秘密の約束を交した



「じゃあ私はそろそろ行くね。…また次の放課後に」
「うん。…また次の放課後に」

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