ザクカイ

「なあ、鬼ヶ崎」
「…なんでェ……」
「トリック・オア・トリート」
ザクロの声に胡乱げに振り向いたカイコクが、その言葉を聞き、ものすごく嫌そうな顔をした。
「…。…お前さん、今何月か知ってるかい?」
「11月だな」
「ハロウィンがあるのは?」
「10月だろう」
「…じゃあなんで今なんでェ…」
幼児がするようなやり取りに、はぁあ、とカイコクが大きく息を吐き出す。
「今年はハロウィンをやっている暇がなかっただろう?」
「あ?ああ、まあなァ…?」
「ならば遅れてでも行うべきではないか?鬼ヶ崎」
「…。…遅れたらもうやらない、っつうのが普通じゃねぇかと、俺は思うが…?」
ザクロのそれにずっと疑問符を浮かべていたカイコクがついにこてりと首を傾げた。
「季節行事なのだから行うべきだろう」
「…忍霧、お前さん、存外行事好きだろ」
「好きとかではなく…」
呆れたようなカイコクにザクロは否定しようとし、埒が明かないので諦める。
そも、そんな話をしたいわけではなかった。
「…いや、良い。それで、トリック・オア・トリートと俺は言ったのだが」
「トリック・オア・トリートはいいが、お前さん、仮装してなくねェか?」
迫るザクロにカイコクは逃げもせず疑問をぶつけて来る。
「そんな事はない」
「ん?」
「…マスクが、変わっているだろう?」
「……は…」
ちょい、といつもとは違う白いマスクを指差し、「地味ハロウィンというやつだな」と言った。
「…ふ、ふふ…」
ぽかんとしていたカイコクがくすくすと笑う。
いつものような胡散臭いようなそれではなく心底楽しそうな彼に少しどきりとした。
「うんまあ…いいぜ?」
散々笑っておいて何故だか上から目線のカイコクが、それで?と目を細める。
「『ザクロくん』はどっちがお望みでェ?」
「…そうだな」
振り回す気満々な…普段は呼ばない名前で呼ぶのが良い例だろう…カイコクが首に手を回してきた。
しかし、ザクロだって振り回されるばかりではない。
「ならば、両方貰おうか?」



「…ん、ふ…」
鼻から抜ける甘い声が部屋に響く。
ぷは、と口を離せば彼もとろんとした顔をしていた。
カイコクは存外キスに弱いのである。
…指摘すればすぐ不機嫌になるから言わないが。
「…なんでェ」
「いや、何でもない」
少しブスくれたような彼にそう言って軽くキスを落とした。
不機嫌になるだけならともかく、やっぱり止めるなんて言われては堪らない。
「…ふ、ん…ぁ……」 
「可愛いな、鬼ヶ崎」
「…る、せ…」
ザクロの愛撫を具に感じているカイコクにそう言えば彼はふいと横に向いた。
素直で良いと言っているのに、と残念に思いながら、宝物に触れるみたいに指や唇を滑らせていく。
躰中にキスの雨を降らせ、弱い快楽から身を捩って逃げようとする彼を抑えつけた。
「まだ愛撫の途中だ。逃げないでくれ」
「んぁ、そんな、トコ…舐め……!ひ、ぅっ!」
足を持ち上げながら彼の足の裏に舌を這わせる。
幼子のように首を振るカイコクに、「まずは
TRICKからだな」とザクロは涼しげに告げた。
「…良い趣味して、る……ぅく…んぁ…!」
「良い趣味、にしっかり感じてくれているのは誰だ?」
少し意地悪く言いながらザクロはローションで濡らした指を彼の後孔につぷりと埋め込む。
くるりと中で円を描き、ゆっくりゆっくり解していった。
その間も胸や腹、太ももを舐め、キスをし、昂ぶらせていく。
「忍、霧ぃ…!も、良いから…!!」
「駄目だ。…痛いのは貴様も本意ではないだろう?」
「ぅううっ!!…ゃ、だ…おかし、くなる…!」
顔を自身の腕で隠しながらカイコクは喉を戦慄かせた。
それを退ければ彼は快楽を瞳に滲ませ、「甘いのは苦手なのに」と泣きじゃくる。
「…お前が好きだから優しくしたいんだ。…分かってくれ、鬼ヶ崎」
「…ん…」
頬に手をやればカイコクは無意識に擦り寄ってこくりと頷いた。 
ふかふかになったアナルには既に指が3本、バラバラで動かしても大丈夫そうで、ザクロは一旦引き抜く。
「…挿れても、良いか?」
「…良いって、さっきから言って…!ふぁ、あ…~~っ!!」
少し目尻を釣り上げながら言うカイコクにゆっくり挿入すれば、彼は途端に喉を詰まらせた。
「や、ァ…っ、待て、まっ……!忍霧ぃ!!」
「挿入れろと言ったのはお前の方、だろう!」
「ちが、ぃや、だ…イ……っ!!」
制す彼を無視してごちゅん、と突き上げた途端、カイコクは喉を反らしてびくんっ!と大きく跳ねる。
ホロホロと涙を零す彼は何が起きたか分かっていない様子だ。
「今日は随分速いな?」
「…っ!だからっ!待てって言った…!!」
怒鳴るカイコクに、口づけし、ザクロは腰を動かす。
余裕ぶっているだけでザクロの方もそろそろ限界が近いのだ。
年上の可愛い恋人に振り回されたくない、立派な青少年である。
「?!ゃ、今、イった、ばっか…!!」
「残念だが俺の方も余裕がない。…だから」
必死に止めようとするカイコクを無視し、ザクロは動かすスピードを増した。
「ゃ、あ゛、まっで、やだぁ!忍霧、忍霧ぃ!!」 
「待てと言われて待てるわけがない、だろう?!」
「は、ぅ…ん゛んぅ…!!」
口づけをしながらザクロはカイコクのナカで果てる。
同時に彼もイったらしく、大きく揺れたカイコクの躰が一瞬にして溶けた。
だが、余韻に浸らせる隙は与えられない。
緩まった瞬間にごつ、と突き上げ、結腸を開いた。
「ぉ、ゔ?!」 
「…すまないな、鬼ヶ崎」
目をチカチカさせるカイコクにザクロは少し、ほんの少しだけ申し訳ない顔を浮かべた。
「もう少し、俺のハロウィンに付き合ってくれ」
そう告げ、ザクロは彼に口づける。
抗議の声は甘いキスに溶けて消えた。



ハロウィンハロウィン。
さて、今宵のお菓子はどんな味?

(ちょっぴりビターで、甘い甘い蜜の味!)

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