アカカイ

「カイコクさん、おはよう御座います!」
「…」
にこにこと近づく俺にカイコクさんはじろりと睨んだ。
あら、随分ご挨拶ですねぇ?
そんな睨まれるような生活を提供しているわけではないんですけど…やっぱり、この生活も3日目ともなってくると飽きてくるんでしょうか。
「朝ご飯にしましょう!その前に着替えを…」
「…。…良い。一人で出来るから放っといてくんなァ」
手を伸ばす俺からカイコクさんはするりと逃げる。
つれないなぁと笑って、俺は近くに座った。
…実は今、カイコクさんは俺に『監禁されて』いる。
俺が頼んで、彼が許可を出した。
だから無理矢理でもないし、期限も決まっている。
…そう、思っていたんですけど。
どうやら彼はそうではなかったようです。
「一人で出来るんですか?」
「あァ。そう言って…」
「…そんな重い手枷が着いてるのに?」
「…っ!!」
カイコクさんが俺の言葉にまた睨んできた。
一応監禁なのだからと着けた、彼を傷つけない仕様の手枷。
ジャラリと重い音を鳴らす鎖はカイコクさんが逃げられないことを示していて。
「…早く着替えて朝ごはんにしましょう?カイコクさん」
にこり、と俺は笑う。
無邪気に、笑う。
彼にとっては恐ろしい笑みで。
「…今日は朝ごはん、食べてくれますよね?」
そう言えばカイコクさんはびくりと僅かに体を震わせた。
「…わ、かっ…た…」
「なら早く着替えてしまいましょう!手伝いますね」
そう言って彼の手枷を外す。
ガシャン、と重い音が響いた、その時だった。
「…っ!」
「わっ」
カイコクさんがパッと走り出す。
…あーあー、まだ監禁期間は終わってないのに。
「…嘘、だろぅ、なんで…開かねぇんでェ…?!」
「…そりゃあ、監禁ですから。逃げられても困りますし」
扉の前で呆然とするカイコクさんの腕を引いた。
「それより、逃げるのは契約違反じゃないですか?」
「…逃げるな、なんて契約をした覚えはないねぇ?」
「普通は監禁したら逃げないものですよ?カイコクさん」
「…入出」
睨むカイコクさんに俺は笑いかける。
持ってきていたお茶碗いっぱいのご飯を見せた。
「先にご飯にしましょうか」
「…」
「…ああ、昨日みたいな食事が良ければそっちにしますよ?」
その提案にカイコクさんは僅かながら目を見開いてからすぐ普段通りの表情を見せる。
彼は敏い人だ。
何が有益で何が不利かをちゃあんと知っている。
…だからこそ。
「…分かった。食やぁいいんだろう?」
「はい!」
諦めたようなカイコクさんに笑顔を見せて、俺はご飯をお箸で掬った。
「はい、どうぞ!」
「…。…流石に一人で食えらァ」
「勿論知っていますよ?…ただ、食べてるフリをされると困ってしまうので」
ね、と笑いかけるとカイコクさんは驚きの表情を見せる。
警戒心の強い彼だ、きっと後で吐き出すつもりだったのだろう。
…媚薬入りの食事、なんて…ね。
「食べさせてあげます。一口残らず、全部!」
優しいですよね、なんて嘯いて俺は無言の圧力をかけた。
「…」
カイコクさんが小さく口を開ける。
何かを諦めたように。
彼の目からハイライトが、消えた。


「…はぁ、ぁぅ…」
ぽや、とカイコクさんの口から熱い吐息が聞こえる。
ご飯を食べ終わって数時間。
きっと彼の中では快楽が燻っているのにも関わらず、カイコクさんは首を振って耐えていた。
楽になれば気持ちよくなれると思うんですけどね?
まあ逃げようとしたお仕置きもあるので、そう簡単に気持ちよくなられても困るんですが…。
「…あ、そうだ」
「…い、りで…?」
熱を帯びた声に俺はにこっと笑って押し倒した。
普通サイズのバイブを手に取ってつぷりと割り開く。
「ひっ、や゛、まっ…!」
「沢山、気持ちよくなりましょうね?…『カイ』」
「…?!!や゛ぁああっ?!!」
ごちゅんっ!と突き入れた瞬間、嬌声を上げてカイコクさんはイッた。
本人も何が何だかよくわからない顔をして目を白黒させている。
「…なん、で…?」
「どんどんいきますよ?」
「…まっ…やぁっ!!イった、ばっか…だか…ふぁあ゛?!ぃぎっ、ひっ、ぅぁあ゛ぁあっ!?」
嬌声を上げ続けながら彼はぎゅぅうとシーツを掴んだ。
躰を丸めようとして失敗し、無意識に逃げようとする躰を抑え込む。
「…イッてください、『カイ』」
「~っ!!!イ、…っ!」
「ちゃぁんとイけたんですね、良い子」
強制的に絶頂に導かれて、自分の意志を振り切った躰にカイコクさんはきっと困惑しているんだろう。
「…ひっ、…ふ、ぅう…!」
「ありゃ、泣いちゃいました?」
ポロポロと涙を流すカイコクさんは幼い子どものようで。
元々精神的に達観しているような人だ、自分の思い通りにならない躰は不安でしかないんでしょう。
「大丈夫ですよ。カイはとても良い子です」
「…っ」
頭を撫で俺は言う。
大丈夫だ、と。
「だから、次もいきますよ!」
「?!や、だ…入んない、入んないか、らぁあァ…?!」
「おっと、まだイッちゃだめですよ?」
二本目の少し太いバイブを追加してスイッチを入れた。
ぎゅっと彼の陰茎を握り込む。
「ぁあ゛ぅ?!やめ、ぃやだっ、気ぃ、狂う…っ!!!」
ぐちゃぐちゃと二本のバイブで掻き回せば彼はいやいやと首を振りながら泣きじゃくった。
「…イきたくね、ぁや、だぁああああっ!!」
「カイ」
「…~~っ!!!」
びくんっ!と大きく躰を震わせ、ぎゅっと躰を縮こませる度に『カイ』と囁く。
この名で読んだ時は気持ち良いことが起きると洗脳するために。
媚薬と洗脳で、彼は快楽に堕ちてくる…その日のために。
「ぅぁぁあ゛ああぁっ!ぃ、たい…ぃだい…っ!!」
「大丈夫ですよ」
「も、やめてくんなぁ…っ!」
三本目を追加した途端、カイコクさんは痛いと泣いた。
「まだ、イけますよね?…カイ?」
「イ…っ!!」
ガシャガシャと響く機械音。
ぷしゅ、と潮のようなものを吹き出し、荒い息を吐きながらカイコクさんは布団に身を沈ませる。
そろそろ媚薬の効果も切れてきたでしょうか。
虚ろな目の彼からバイブを引き抜く。
ぽっかり空いた場所に自身を埋め込んだ。
「一緒に気持ちよくなりましょうね…カイ」
囁いて俺は口付ける。
何度目かも分からない絶頂を無理やり迎えさせられたカイコクさんの躰は。
もう戻れないところまできてしまった。


名前を呼ばれただけで発情する躰へと変貌するまで後少し。

それまでたくさん遊んであげます。

食事をしっかり取らせて、快楽を躰に叩き込んであげます。


ねぇ、俺の愛しい『カイ』。


「…カイ。愛してます」

俺は囁く。

痛い程の快楽に抗えない、彼に向かって。

…今日はまだ始まったばかりだ。

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