彰人誕生日

「…彰人」
冬弥の声がして顔を上げる。
図書委員である彼を待つのにも慣れた。
幸せな日常、とでもいうのだろうか。
別に苦でもない、逆に冬弥を想う幸せな時間の終わりに、彰人は笑みを浮かべる。
やはり、本物に限る、と。 
「おう」
「すまない、少し遅くなってしまった」
「いや、別に待ってはねぇけど…」
少し困った顔でこちらに来た冬弥に、彰人は首を傾げた。
何だかいつもと違う、と考え、すぐそれに気づく。
「…それ、どうした?」
「…!やはり、気づいてくれるんだな」
彰人の指摘に冬弥はふわ、と笑った。
昔より感情変化が分かりやすくなった冬弥に、そりゃあな、と言いかけ…やめる。
まあ別にこれは言わなくても良いだろう。
「つうか、なんだよそれ」
「…似合って、いないだろうか」
「似合ってるとか似合ってねぇとかそんな話じゃなくて…」
こて、と首を傾げた冬弥の、『オレンジのリボンが結ばれた』髪が揺れた。
編み込みになっているから不自然ではないし、似合っていないかと聞かれればそんなことは無いと全力で首を振るだろう。
だが問題はその意図だ。
「プレゼントは俺だと言えば喜ぶのでは、とアドバイスを貰ってな。…今日この後の時間は彰人に全て捧げよう」
「…お前な…」
「…やはり、駄目だったろうか」
しゅんとする冬弥を抱きしめる。
誰のアドバイスかは知らないが、存外間違っていないのが腹が立った。
「…彰人?」
「…。…誰か知らねぇけど、その通りだよ…くそっ」
「…!…そうか」
ふふ、と耳元で微笑む気配がする。
まあ彼が笑顔なら良いかと思った。
「…じゃあ歌の練習すっぞ。その後カフェ」
「…いつもと変わらなくないか?」
「いいんだよ、それで」
首を傾げる冬弥に、彰人は笑う。

いつもと変わらない幸せが、彰人は一等大切なのだから!




(彼が彰人のことを考えて、隣りに居てくれる今が一番のプレゼントなのです!)




「…で?こんなこと言うのは杏か?暁山か?」
「いや?編み込みをしてくれたのはその二人だが、案をくれたのは草薙だ」
「…へぇ……。…は?」

name
email
url
comment