司冬ワンライ・88☆彡

きっとどこかで 気づいてたんだ


何でもない子供騙しだって 

これは

子どもなりに【幸せ】を届けようとした、ちっちゃいスターの物語




「…冬弥!」
ひょい、と顔を出すと冬弥はゆっくり微笑んだ。
「…司さん、こんにちは」
「全く、固いなぁ冬弥は!呼び捨てでも構わないんだぞ?」
「…そんな訳には…」
少し困った顔をする冬弥に司は笑う。
めげない、まるで道化師のように。
「さて、今日は何をする?!前回のように無茶苦茶エチュードをするか?それとも久しぶりに人探しの本を見るか?」
明るい笑顔で司は提案した。
彼が、ピアノを弾くのが辛いだと思うなら楽しいものにすれば良い。
それも出来ないなら少し離れれば良い。
無理にしがみついて嫌になってしまうよりずっと良いのだから。
「…今日は、小さくて欲張りな夢見るねずみが、セカイに飛び出すショーが見たいです」
「!!前に練習をしていると言ったのを覚えてくれていたのか!」
「…はい。司さんのショーはいつも心が暖かくなるので、とても…好き、なんです」
ゆっくりと冬弥が微笑む。
そんなことを言われたら期待に応えるしかないだろう。
「ならば、冬弥のためにも素晴らしいショーをしなければなぁ!」
高らかに笑い、司は自身のクローゼットを開けた。
冬弥を笑顔にしたい、セカイに通用するスターになりたい。
司の夢や希望は1つしか叶えられないものだろうか。
そんなことはない。
夢も希望も欲張っちゃえばいい、のだ。
…夢か希望か、なんて誰が言ったのだろう。
「酸いも甘いもなんもない、と仲良しのうさぎが嘆きます。けれど小さくて欲張りな道化師ネズミは笑うのでした。…『そんな君に幸せが降るといい』と」
司は楽しくショーをする。
なんもない、と言うから世界は色付かないのだ。
だってほら、幸せはすぐ傍に!
「幸せの流れ星が2人に降り注ぎます。…ほら、それは見ている君にも」
「…え?」
ショーを見ていた冬弥に言えば彼はキョトンとした。
部屋を暗くし、壁中に貼られた蓄光の星を輝かせる。
天井の装置を作動させて冬弥の手に星を乗せた。
「…!!」
「…冬弥、幸せは自分でつかむものだぞ」
司は笑う。
あの、ネズミのように。


きっとこんなのは何の解決にもならない、子供騙し。

それでも、司は愛する彼に幸せになってほしかったのだ。


「希望と夢と愛を、冬弥に。…何せ、オレは欲張りなものでなぁ!」

司は笑う。
いつか君が本当の笑顔を見せてくれますように、と星に願いを…かけた。

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