司冬ワンライ・背徳/ピザの日

冬弥はピザを食べたことがないのだという。
まあ育ちが良い方だとは思っていたが…。
「…よし」
「?司先輩?」
久しぶりに冬弥が泊まりに来た日、夕飯は何にしようかと考えていた矢先の話だ。
何か適当に作る気でいたが…ピザを食べたことがないなんて聞いたら黙ってはいられなかった。
「宅配ピザを頼むぞ、冬弥!」
「え?」
「なぁに、たまには良いだろう!…確か冬弥はイカが苦手だったな。ならばシーフード系はなしにして…」
「あ、あの!先輩!」
スマホでメニューを検索し出す司に冬弥が慌てたように口を挟んでくる。
どうしたのかとそちらを向けば彼は困った顔をしていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、あの…良いのでしょうか…」
「?何がだ」
「少し…はしたないのではないかと…」
小さな声で言う冬弥に目を丸くする。
きっと彼は幼少から大切な手で食べるものははしたないと言われてきたのだろう。
「…。…気にすることはない。…それに」
司はニッと笑ってみせる。
冬弥が心置きなくピザを楽しめるように。


(せっかく美味しいのに、そんな気持ちで食べてはつまらないじゃないか!)

「このオレと悪いことをする、そんな背徳も良いものだろう?」


今日はピザの日、密の味。

(二人で食べるピザの味は)

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