セカイの衣装バグが起こりましてケモミミしほはる

セカイにはバグがある…らしい。
想いの持ち主の体調不良だったり、音楽機器の不調だったり、その辺は曖昧だ。
だが、唐突に、意図せずに起こる。
そうして今回のバグは、現実にも影響を及ぼすものだそうだ。

それは、ほら、今回だって。


何故だか志歩に耳が生えた。
勿論志歩は人間だから、人間の耳ではない…オオカミの耳だ。
「…なんで……」
はあ、と息を吐く。
文化祭のお化け屋敷でオオカミ役なんかやったからだろうか。
まあ確かに文化祭は楽しかったが…まさかセカイにまで影響するとは。
ミク曰く、「多分すぐ戻ると思うけど…」とのことだった。
だが、現実世界に戻ってきたが一向に戻る気配がない。
前もそんなことがあったが、今回が前と違うのはセカイの中だけでなく、この現実世界にも影響しているようなのだ。
前もそんなことがあったし…どうやらラグがあるらしい。
誰にも会わなければ問題はないだろうけれど。
「…水でも取りに行こうかな」
現状に諦めた志歩は小さく息を吐いて自分の部屋を出る。
姉に見つかれば面倒だが、この時間ならば大丈夫だろう。
が、それは部屋を出た瞬間に打ち砕かれる事になった。
「…遥ちゃん、お手洗いは…」
「大丈夫だよ、雫の家には何度も来たことあるし……」
よく知った声がする。
え、と思った瞬間、遥が現れた。
「あれ?日野森さ…」
「ちょっと来て!!」
きょとんとする遥を自分の部屋に引き込む。
「…え、えと…」
「…。…なんでいるの…」
パタン、と扉を閉め、戸惑う遥に疲れた声で問うた。
「今日は新しいダンスを撮りたいねって話になって、集まっていたんだ。多分、雫も言っていたと思うんだけど…」
困ったように遥が言う。
そういえばそんな事を言っていた気がした。
…オオカミ耳の件で忘れたけれど。
「…えっと、日野森さんのそれは…?」
こてりと遥が首を傾げる。
「…。…気にしないで」
「でも」
「そんな事を言い出したら桐谷さんだってそうでしょ」
志歩は言いながら遥の頭上に手を伸ばした。
彼女の頭上には黒い猫耳が揺れている。
「…えっと、これは…」
「私は気にしない。だから桐谷さんも気にしないでほしい」
「…。…分かった、気にしないでおく」
「うん、宜しく」
神妙に頷く遥に志歩もホッとした。
やはり彼女は話が早い。
「気にはしないけど…その……」
おずおずと遥がこちらを見た。
どうかしたのだろうか、と見れば彼女は志歩の頭を凝視していて。
「…触ってみても、良いかな…?」
「え?ああ、いいけど…」
「!ありがとう!」
嬉しそうに遥が笑う。
彼女はペンギンが好きだったと思ったのだけれど。
「うわぁ…!ふかふかだ…!」
「自分じゃよくわからないけど…そう、なの?」
「うん!ワンちゃんにも似てるけど…これ、オオカミ?」
「よく分かったね」
正解を出してくる遥にそう言えば彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うん!文化祭の被り物は見せてもらったし」
「いや、だからって…」
「ちょっと格好良いなって、思ったんだよね」
にこにこ、笑いながらそんな事を言う遥に目を見開き…志歩は小さく息を吐く。
それから。
「?日野森さ…わっ?!」
「そんなこと言ってたら食べちゃうよ?猫さん」
遥を押し倒しらしくもないことを言ってみる。
流石に驚いた遥は目を丸くするが肩を揺らしてから綺麗な笑みを浮かべた。
「…オオカミさんの好みじゃないかもだけど…良かったらどうぞ?」
ピコピコと黒い猫耳が揺れる。
遥によく似合う、黒の猫耳。
「…桐谷さんでもそんなこと言うんだ?」
「ふふ、日野森さんこそ」
小さく笑いあってそっと口を寄せる。
遥ちゃん大丈夫?なんて姉の声が僅かに聞こえた。
顔を見合わせ、ふは、と笑う。
何だか秘密を共有しているみたいだな、と…そう、思った。



お伽噺のオオカミは悪いやつで、猫はずる賢いやつだ。
なら、その二人の恋模様は?

(駆け引き渦巻くラストシーンへの展開は、オオカミさんと黒猫さんだけが知っている)

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