司冬ワンライ/温かい飲み物(ホットドリンク)・選ぶ

寒い季節になった。
少し前まで暖かかったように思ったのだが…はあ、と吐く息は白く、すっかり冬なのだなぁと司は思う。
「…司先輩」
「…おお、冬弥!」
呼ばれた声に振り返れば冬弥が鼻の頭を赤くして立っていた。
「少し寒いのではないか?ん?」
「あ、いえ。俺は…」
「ほら、手も冷たくなっている!風邪を引いてしまうぞ?」
ぎゅっと冬弥の手を握る。
ひんやりした手に司は僅かに顔を顰めてそう言った。
辺りを見回し、ふと自販機を見つける。
「お、良い場所に!」
「司先輩?」 
きょとんという表情の冬弥に、良いから、と司は笑った。
彼の手を引き、司は自販機の前まで連れて行く。
「温かいものを飲めば少しは寒さも和らぐだろう…選んでくれ、冬弥!」
「いえ、そんな…!」
「オレが愛する冬弥に、寒い思いをさせて平気だと思うか?」
「…!」
司の言葉に冬弥は目を見開き、それからゆっくりと微笑んだ。
「…ありがとうございます」
嬉しそうな彼は自販機に向き直り、ふと何かを思いついたような顔をする。
「?どうしたんだ、冬弥」
「いえ。折角なので先輩に選んでいただきたくて」
「何っ、オレがか?!」
驚く司に冬弥は頷いた。
どうやら本気らしい彼にふむ、と司は自販機を見る。
愛しい人からの挑戦状だ、受けてやらねば男が廃るというものだろう。
冬弥は珈琲が好きだ。
だが練習場所でもある杏の父親の店で美味しい珈琲を飲んでいる…ならば今更缶コーヒーも選ばないだろう。
だからといって冷たいものも飲まないだろうし甘ったるいものは論外だ。
…ならば。
お金を入れ、ボタンを押す。
ガコン、と音がしてそれが出てきた。
「オレはこれを選んでみたが、どうだ?」
「…!流石です、司先輩」 
冬弥が嬉しそうな表情で缶のコーンスープを受け取る。
あまり自分では買おうとは思わないそれ。
多分触れたこともないだろうその缶に冬弥は柔らかい表情をしていた。
まるで、少し甘く温かなコーンスープのように。


北風が吹く季節、心は単純に暖かくなるものだな、と司は目を細めた。



「よく振ってお飲みください…初めて見ました…!」
「うむ、しっかり振ると良いぞ!後、熱いから気をつけてな」
「はい!」

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