タバサ受け

「えー!絶対ねこだよぉ!」
「…うさぎ…」
天気が良い日、珍しくガーデニアとラッセルが何やら言い争いをしているのが見えて、タバサは首を傾げた。
隣ではコーディが物凄く呆れた目を向けている。
何かあったのだろうか。
「コーディ、何かあったのか?」
「あら、タバサ」
モメている二人よりは教えてくれるだろうかと近付いて訊ねれば、彼女はこちらを見上げ、やれやれと息を吐く。
「実にくだらない意見の、主張のし合いよ」
「ん…?」
「あ、タバサ!!」
的を得ない答えに疑問符を浮かべれば言い争いをしていたガーデニアがこちらを向き、嬉しそうに近寄ってきた。
大体こういう時は嫌な予感しかしない、とタバサは蹈鞴を踏む。
「逃げなくてもー!」
「だって、こういう時のお前、面倒くさいことしかないし」
「そんなことないよっ、ねえ、ラッセル?」
頬を膨らませたガーデニアは先程まで言い争いをしていたはずのラッセルに同意を求めた。
「…それは…どうかな…」
「あーっ!ラッセルまでー!」
「何でも良いけど、決まったの?」
少し考え込むラッセルにガーデニアはもー!と怒り出す。
それに慌てるでもなく言ったのはコーディだ。
「ううん、まだ!」
「明るく言ってる場合じゃないでしょ…」
ガーデニアの答えにコーディがため息を吐き、タバサは軽く苦笑いを浮かべる。
コーディは妹属性のはずだが…5つの年の差は大きいのか並んでいれば姉妹のようだ。
…そんな事を言えばコーディの本当の兄であるドグマがどんな顔をするか想像に固くないけれど。
「ところで、何をモメてるんだ?」
「えっ、聞いちゃう?」
タバサの疑問に、ガーデニアが何故だか動揺した。
え、とラッセルを見れば彼も微妙そうな顔をしていて。
何だろう、聞いてはいけなかっただろうか。
不安に思っていれば「もう、本人に聞いちゃえば?」とコーディに言われる。
「んー、それもそっかぁ」
「…一理ある、かも…?」
「え、何の話…」
頷く二人にたじろぐと、コーディがツインテールを揺らし、息を吐いた。
「自分で聞いたんだからね」
「ええ…」
そう言う彼女に困った顔をする。
何やら面倒なことに首を突っ込んでしまったらしかった。
「あのねあのね!この前ニャン族のカクレミノでネコ耳のポンチョもらったでしょ!」
「ああ、閑照先生が調合した漢方のお礼ってもらった?」
「そーそー!」
「…赤の羅針盤から行ける洞窟で、ウサ耳のポンチョ手に入れたよね」
「…あー、ヨツバ病院で拾った羅針盤を見たら突然出てきた場所だっけか」
「うん」
頷く二人はずい、とタバサに顔を近づけてくる。
そうして。
「タバサはウサ耳ポンチョと」
「ネコ耳ポンチョ、どっちが着たい?!」
「…は??」
思っても見なかった問いにタバサは目をぱちくりとさせた。
後ろでコーディがやれやれと息を吐く。
「え、もしかして二人がモメてたのってこれか…?」
「そうよ」
後ろを振り返ればコーディが神妙に頷いた。
「ええー…」
あっさりと頷いた彼女に、タバサは困惑の声を上げる。
「コーディが着れば良いのに」
「着ないわよ」
「えー?!誰かが着れば着てくれるって言ったのに!」
「…いや、まあ、あれは…」
抗議の声を上げるガーデニアにコーディは目をそらした。
「酷いよー!コーディにはウサギさんのポンチョ、似合うと思ったのに!」
「だから、私にはそういうのは…」
ガーデニアの勢いにコーディはたじたじな様子である。
タバサはそんな二人に乾いた笑いを向け、ふと疑問符を浮かべた。
「あれ?でもガーデニア、俺にもポンチョ着させたがってなかったか?」
「タバサには猫さんだよ!だって、似てるでしょ?」
「えっ、俺が?ニャン族に?」
明るく言うガーデニアに、少し複雑な気分になる。
そんなに、似ていただろうか。
「…タバサは、ウサギに似てる」
「ら、ラッセル?」
いつの間にか近くにいたらしいラッセルがぎゅうと抱き着いてきた。
弟のようで可愛いなぁと思うがその発言には首を傾げる。
「ウサギって、あの洞窟にいたやつだろ?うーん、似てるかなぁ…」
「あれはバケモノでしょ。本物はもっと小さくてふわふわして可愛いよ」
「…その評価は余計におかしくないか?俺、成人男性だけど」
「大丈夫、タバサ、可愛いから」
「えー…???」
何故だか自信満々に言うラッセルに何も言い返せなくなり、ガーデニアとコーディの方に目をやった。
「コーディも可愛いからねっ?!」
「はいはい、ありがとう」
ふんすっ、と息巻くガーデニアに、コーディはさらりとあしらっている。
前はもうちょっと照れていた気がしたから…慣れたのだろうか。
「で、結局どうするのよ。早くしないと日が暮れちゃうわよ?」
「あっ、そうだった」
話題を変えるようにコーディが言う。
はっとしたガーデニアはまた悩みだした。
「でも私もラッセルも譲れないんだよねぇ。じゃあ第三者の意見を聞くのはどうかなっ?」
「…?ドグマとか?」
「…いや、ドグマはやめてやれよ…」
「…兄さんにそんなこと聞いたら2日は悩んじゃうわ…」
「じゃあ駄目だねー」
タバサとコーディの反応に、ガーデニアが明るく笑う。
「うーん、じゃあ夢先案内人の人たちにしよ!良い意見くれそうじゃない?」
「…情報屋に聞くよりは、まあ」
「まあ、じゃないわよ、どっちもやめなさいよ」
「流石に巻き込むのは、なぁ…」
眉を顰めるコーディに、タバサも苦笑いを浮かべるしかなかった。
町の住人ならばともかく、夢先案内人の彼らは(戦闘を手伝ってもらったりはするが)ほぼ無関係だ、巻き込むのも可哀想だろう。
…情報屋は存外ノリノリで答えてくれそうだが。
「えー、じゃあねぇじゃあねぇ!」
「…ガーデニア、ちょっと楽しくなってない…?」
代案を挙げるガーデニアをじっとりとコーディが見つめる。
まだまだ決まる様子もなく、タバサは眉を下げて笑いながら少し空を見上げた。
青い空には雲一つなくて、タバサは目を細める。

何だか平和だなぁ、と漠然と思ったのだった。



(タバサも、ガーデニアも、コーディも知らない)

(この平和は、仮初の、作られたものだってことを!)

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