しほはるワンドロ・振袖/巫女さん

バイトからの帰り道、なんだか道で振り袖の人をよく見かけた。
何故だろうと思っていたが、そういえば姉から「今日は成人式ねぇ」とのほほんと言われたのを思い出す。
着物なんて着たのは七五三くらいしか記憶にないな、と思いつつ志歩は人々の群れに逆行するように足を向けた。
少し遠回りになるが…人混みに揉まれるよりは良いだろう。
…と。
「今晩は!成人式の帰りに温かい飲み物は如何ですか?」
ふわふわした声が聞こえる。
え、と思ってそちらに顔を向ければ遥が笑顔で道行く人たちに何かを配っていた。
「桐谷さん?!」
「日野森さん!今晩は、もしかして練習帰り?」
「いや、今日はバイト…。…っていうか、何してんの」
「うーんと…ボランティア?」
困ったように遥が笑う。
彼女がいうに、この神社に知り合いがいるようで、また手伝っているらしかった。
そういえば以前も手伝っていた気がする。
その時はMOREMOREJUMP!ではなく個人としての手伝いのようだが。
「それにしても何で…」
「…巫女服が見たいって頼まれちゃったの」
「…あー、そういう……」
へにゃりと笑う遥に志歩は納得する。
遥は以前と同じで巫女服を着ていたからだ。
正月でもないのに、と思ったがどうやらその知り合いが頼み込んだようである。
今日は成人式、ついでに仕事も、と言われれば遥には断る義理もなかったのだろう。
「…日野森さん?」
「…。…あんまり他の人に桐谷さんの可愛い姿見せたくないから、程々にね」
そう言えば遥は目を丸くしてから嬉しそうに笑った。
「うん、分かった」
独占欲が強いかな、と思ったが彼女は気にならなかったらしい。
少しホッとしながら、遥から紙コップを受け取った。
「そういえば今日成人式だね」
「そうだね。…桐谷さんは、振り袖着たい、とかある?」
「私?うーん、憧れはあるけど…。日野森さんは?」
「私は…別に良いかな……両親がどうしてもっていうならまあ、考えるかも…?」
遥に問いかけたが逆に質問されてしまい、志歩はそう答える。
「…ご両親だけ?」
「え?」
「…私のワガママは、聞いてくれない?」
珍しい彼女のそれに目を丸くしてから、ふは、と笑った。
どうやらしてやられてしまったらしい。
「良いよ。…桐谷さんが着てくれるならね」
「…ふふ、じゃあ成人式の約束ね」
お互いに言い、くすくすと笑った。


きっと、成人しても。


この幸せな関係が続いていますように。


「…ところで桐谷さん、これ、なに?」
「それ?ホットアップルジュース、だよ」

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