司冬ワンライ/和服・見惚れる

「和服…なぁ」
紙袋の中身を見て司はうーんと上を向いた。
正月のショーで使った衣装を、いつもならば衣裳室に置いてくるのだが何故だか今日は貰って帰ってきてしまったのである。
何故そんなことをしたのかは自分でもよく分かっていなかった。
「衣装?全然良いよー!この衣装、どばーんってしてキラキラで格好良いもんね!」
「まあキラキラし過ぎてるから普段使いは出来ないだろうけど…」
「そもそも、和服は私生活では着る機会も少ないかもしれないけれどね。司くんが和装の生活に変えたいというのなら話は別だろうけれど」
えむに寧々、類が口々に言う。
確かに正月で使用した衣装は少々煌びやかが過ぎた。
それに和服というのもハードルは幾分高い。
…えむの、「そーかなぁ?司くんなら普段のお洋服にしてもだーいじょーぶだよ!」という無責任なあれそれは置いておくとして。
ならば何故、持って帰りたいと思ってしまったのだろう。
「…考えていても仕方がない」
息を吐き、司は正月ぶりに袖に手を通してみることにした。
着ることで何か分かるかも知れない。
幸いな事にショーで使うものであるため、着るのには苦労しないタイプのものだ。
「うむ。やはり素材が良いな!着心地は上々だ」
大きな姿見に全身を映し、司は満足とばかりに頷く。
流石は鳳財閥のオーダーメイド、詳しくは聞いていないが最高級品なのだろう。
…それをぽんとくれる辺り、司とは住む世外が違うと思った…それは置いておいて。
着心地はともかくとしてやはり自分が欲しいと思った理由がよく分からなかった。
確かにデザインは好きな形だし、着心地も抜群だ。
だが…。
「…む」
と、その時、ピンポーンと玄関チャイムの音がした。
今日は両親も妹もいないから自分が出なければいけない。
「はい、どちらさ…」
階段を駆け下り、扉を開けた。
「…え」
「おお、冬弥ではないか!!どうした?」
その前にいたのは何やら荷物を持った冬弥で。
司は表情を明るくさせたが彼はぽかんと司を見つめている。
「?冬弥?」
「…あっ、すみません。あの、母さんが、先輩のお母様から教えていただいたという料理がよく出来たので持って行ってほしい、と」
「そうだったのか!わざわざすまない!」
「…いえ」
冬弥がふいと目をそらした。
何か失礼なことでもしてしまったろうか?
「どうしたんだ?」
「…えっと、その」
「?」
彼がそわそわとこちらを見る。
ちらりと見える耳朶は赤く染まっていた。
「…すみません、先輩が格好良くて…見惚れてしまいそうでしたので」
小さな声に、なんだ、と司は笑う。
冬弥の反応も…自分が何故この服を持って帰りたかったのかも。

何故ならそれは。


「…もっとオレに見惚れても良いのだぞ?」


司は笑う。
きっと彼のこの顔が見たかったから。

(司だけを映す、そんな顔)

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