第7回しほはるワンドロワンライ/桃の節句・メンバーカラー

春、パステルカラーが街に踊る、そんな季節。

可愛らしい歌が聞こえ、今年もこの時期がやってきたんだなぁと笑みを浮かべた…そんな日の朝。


「…おはよう、日野森さん!」
「…。…おはよう、桐谷さん」
柔らかな風が吹く道を歩いていた志歩は背後から声をかけられ、振り返って目を細めた。
そこにいたのは随分とご機嫌な遥だ。
「何だか楽しそうだね」
くすりと笑って聞けば、彼女はきょとりと目を瞬かせてから「そんなにバレバレだったかな」と照れるように言った。
「まあ、分かるよ。それで、何があったの?」
「特に特別な事じゃないんだけど…。…昨日ね、ひな祭り配信をしたんだ」
「ひな祭り配信?」
遥の言葉に今度は志歩がきょとりとする。
アイドルグループである彼女たちのプラットフォームは所謂動画サイトだ。
色んな配信をしているのもあり、今回のそれも企画の1種なのだろう。
「そうなの!自分たちで雛飾りを作ったり、ひな祭りにまつわる話をしたり、ひな祭りケーキを作ったりしたんだよ」
「へぇ、楽しそうだね。……って、ひな祭りにまつわる話って…お姉ちゃん、私の話をしたんじゃ…」
ふと、ある事に気付いて志歩は少し嫌そうな顔をした。
遥が曖昧な笑みを浮かべているところからしてそれは当たっているのだろう。
「あはは…。…そうだ、ファンの子がね、私達のカラーリングが春夏秋冬みたいだねって言ってくれたんだ。愛莉が桃色で、私が水色、みのりがオレンジで雫がミント色だから」
ぽん、と手を叩いた遥が話題を変えてきた。
それにへえ、と乗ることにする。
…あまり不毛な話を続けても仕方がないし。
「そう言われてみればそうだね。…ならうちは秋冬寄りって感じなのかな」
少し考えてそう肩をすくめてみせる。
一歌がマリンブルー、咲希が黄色、穂波が赤、そして、志歩は黄緑だ。
「…うーん、天馬さんは春の色してるんじゃないかな。お日様みたいな感じがする。日野森さんの黄緑は夏の爽やかな色だと思うんだけど…」
「ああ、確かにね。…なら、私と桐谷さんはおそろいだ」
小さく笑い、志歩は言う。
きょとりと目を瞬かせた遥が嬉しそうに破顔した。
「うん、そうだね。…日野森さんとおそろい、嬉しいな」
ふわふわと遥が笑う。
春の風を纏わせて。
「…私も桐谷さんとおそろいなの、嬉しいよ」



柔らかな風が吹く道を二人。

春の弥生のそんな日に。



(桃の香りが鼻をくすぐった


あなたと一緒ならいつだって幸せ)



「あ、愛莉と天馬さんだ」
「本当だ。…たしかにあの二人、春の色してるかもね」

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