司冬ワンライ・たんぽぽ/どこか遠くへ

道の端でたんぽぽの綿毛を見つけた。
それを見、嗚呼、春ももうすぐ夏になるのだな、と思う。
「…たんぽぽは司先輩に似ていますね」
「ん?」
隣を歩いていた冬弥が僅かに微笑んで言った。
それに首を傾げれば彼は司の好きな表情を浮かべる。
「太陽に向かって花を咲かせる、キラキラしているところや、人を元気にさせるところ…それから、どこにでも行けるところが、先輩に似ていて」
「そうか??」
「はい。特に幼少期の俺にはとても眩しかったです」
少し遠い目をする冬弥を引き寄せた。
今の司自身を見てほしくて。
「…先輩?」
「…。知っているか?冬弥。たんぽぽには幸せや真心の愛という花言葉がある。もしオレがたんぽぽに似ているのならば、きっと愛しい冬弥に捧げるためにあるのだと、そう思うが」
「…!」
「それにな、昔はともかく今は冬弥もどんなところにも行けるだろう?」
驚いた顔の冬弥の手を引いた。
風で綿毛が飛ぶ。
ふわりと舞い上がり、青空に溶けた。
「オレたちも綿毛に負けず行くぞ、冬弥!」
「…はい」
笑う司に冬弥も目を細める。
そこに、かつてどこか遠くへと願っていた少年はいなかった。




さあ、行こう

幸せを引き連れ、共に!

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