しほはるワンドロワンライ・夏休み/予定

「夏休みの予定をお聞きしても宜しいですか、お嬢さん!」
「…なに、それ」
ひょこりと覗き込んで言われたそれに、志歩はふは、と笑う。
それに聞いてきた彼女…遥がふわふわと髪を揺らした。
「ふふ。もうすぐ夏休みでしょう?…普通に聞くだけじゃあ面白くないと思って」
「予定聞くのに面白みなんていらないから」
笑いを堪えてようやっとそう言ったのに遥はそうかな?と何故か不思議そうだ。
「…それで?私の予定が気になるんでしょ」
「!教えてくれるの?」
「そんな面白い予定はないよ。大体は次のライブの為の練習だし。空いてる時間はバイトかな。…桐谷さんだってそうじゃないの?」
「まあ…。来週はテレビ収録とロケ、後はラジオにも出る事になったの」
「へえ、おめでとう」
「ありがとう、日野森さん」
素直に言えば彼女はへにゃりと笑う。
「じゃあやっぱりお互い夏休みは忙しいね」
「そりゃあね。…夢は、譲れないでしょ」
笑う志歩に遥が、目を丸くしてから、もちろん、と言った。
志歩は遥の夢を知っているし、遥も志歩の夢を知っている。
知っていて、そんな夢に直向きな彼女のことが好きになったのだ。
…遥も、そうだったら嬉しいな、と思う。
「…。…ま、夏は予定合わないにしてもさ」
「?」
「…今日のお祭りくらいは一緒に行けるけど?」
きょとりとする遥に手を差し出した。
夏休みに入る前、この地域ではこぞって夏祭りが行われるのだ。
「…いいの?」
「誘ってるんだから当たり前でしょ。…もっと、ロマンチックな方が良かった?」
笑う志歩に、遥がくすくすと楽しそうにその手を取る。
「うーん、日野森さんは変わらないでほしいかも」
「何、それ」
向日葵のように笑う遥に、志歩も肩を揺らしながら取られた手を引き寄せた。
「じゃ、放課後迎えに行くよ、お嬢さん?」
「…もう、日野森さんたら」
彼女が可笑しそうに目を細める。
そんな反応をされる方が何だか恥ずかしかった。
「…やっぱり私にはこういうの、向いてないかも」
「無理しなくても良いのに。私はいつもの日野森さんが好きだよ?」
「…ありがとう、桐谷さん」
はあ、と息を吐く志歩に遥がフォローしてくれる。
…こうなったのも遥のせいなのだけれど、と思ったが不毛なので言葉にするのはやめた。
代わりに、「私も桐谷さんのこと、好きだよ」と告げる。
ありがとう、という彼女の耳は柔らかく染まっていた。
「…ま、夏休みの間ずっと会えない訳じゃないし。予定が合えば遊んだり…メッセージ送ったりは出来るしね」
「…そうだね」
遥が笑う。
夏が良く似合うそれで。


夏休みの予定は合わないけれど


それが全てではないことは志歩が一番良く知っているから。



「じゃ、帰ろ、桐谷さん」
「…!うん、帰ろう、日野森さん!」



照りつける日差しの中、手をつなぐ少女たちが飛び出す

夏休みはもうすぐそこ!

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