司冬ワンライ・教室/夕暮れ

夕暮れ刻の教室で

有り体に言おう


司は天使を見た




風紀委員の仕事で少し遅くなってしまった。
今日はショーの練習もなくて助かった、と怒られない程度に足を早める。
急がなければ。
「お、天馬!」
「む」
新しいクラスメイトが司を呼び止めた。
司の用事のせいで彼を邪険にするのは違う、と立ち止まる。
「どうかしたか?」
「ああ。2年のお前の後輩さ、教室の前で待ってたから中入って待っとけって言っといた。最初は遠慮してたけど委員会なんて何時に終わるか分かんないだろ?」
あっけらかんと彼は笑った。
その手をぎゅっと握って「助かる!ありがとう!」と礼を言う。
大した事してねぇだろ、と笑う彼に手を振り、司は先程より急ぎ足になった。
「…すまん、待たせー…!」
ガラッと教室のドアを開ける。
秋風がカーテンを揺らす部屋の中。
司の机に、彼が…冬弥がいた。
イヤホンを着け、スマホに目を落とす冬弥は、とても美しく見えて。
嗚呼、彼は司にとっての天使だ、と暫く惚けてしまった。
「!司先輩!」
ふ、と彼の声に我に返る。
いつの間にか冬弥はイヤホンを取って立ち上がろうとした。
「…すまん、遅くなってしまった」
「いえ。…司先輩、夕日に輝いて少し見惚れてしまいました」
「何、それはオレの方だぞ?!」
「…え」
小さく笑う冬弥の手を取る。
驚いた表情の彼に口付けて笑いかけた。
「夕暮れに佇む冬弥を見て、オレは天使がいたのかと思ってしまった」
「…司先輩」
ふわりと彼が微笑む。
金木犀色が教室の中を包んだ。
さあ帰ろうか、と司は冬弥の手を引いた。



これは

秋の日の、よくある話

name
email
url
comment