バグハロウィン

セカイにはバグがある…らしい。
想いの持ち主の体調不良だったり、音楽機器の不調だったり、その辺は曖昧だ。
だが、唐突に、意図せずに起こる。
そうしてこのバグは、現実にも影響を及ぼすものだそうだ。

それは、ほら、今回だって。



「…またかよ…」
ショーウィンドウに映った姿を見て彰人はため息を吐く。
明らかにセカイに行く前とは服が違うのだ。
このバグは何度か体験したことがある。
それにいつもと違って焦らないのは今日がハロウィンだからだ。
少しくらい変わった格好でも怪しまれないだろう。
だが、これは。
「…騎士、か?」
しげしげと自分の姿を見つめた。
白を基調にした重い服。
青いマントに、腰にはご丁寧に剣が差してある。
剣自体に重さはないから、イミテーションなのだろう。
そういえばセカイで見たことがあった気がする。
…髪型まで変わっているのは不可思議で仕方がないが。
「…あれ、犬嫌いの人」
「あぁ?」
失礼な声に彰人は胡乱げに振り向いた。
そこには「冗談」と笑う女子の姿があって。
「…っと、こないだ杏と歌ってた」
「日野森志歩だよ、東雲くん」
くすくす笑う彼女の隣には少し困ったような青髪の少女がいた。
「日野森さんってば…」
「大丈夫、ちょっとは交流あるから」
「ったく。…アンタ、桃井さんとこの」
「そうだよ。…桐谷遥です。杏がお世話になってます」
にこりと青髪の少女が笑う。
少し意外な組み合わせだなと思った。
「…いや、そんなことないでしょ。チョコレートファクトリーでも会ったよ」
「…ああ、そういやいたな」
思ったことを言葉にすれば志歩がそう言う。
それに彰人も頷いた。
「で、アンタらもハロウィンか?」
「…まあ、そんなとこ。東雲くんも?青柳くんは一緒じゃないんだ」
曖昧な言い方をした志歩が首を傾げる。
それに、今度は彰人が「まあな」と言葉を濁した。
「ふふ、二人とも仲良しなんだね」
「ま、相棒だからな」
ふわふわと遥が笑う。
同じようにドレスが揺れた。
「…彰人」
「…おお、冬…弥?」
よく知る声に振り向けば冬弥が駆けてきていて。
…だが。
「…わ、すごい!」
「…本格的だね?」
遥も志歩も驚いた顔をする。
冬弥からも服が見たことないものになっている、とは連絡があったが…。
「ああ、ありがとう」
「これ…何の衣装だ…?」
「竜騎士、だな。…前にレンが教えてくれたんだ」
こっそりと彰人に囁く冬弥に、ああ、と彰人は頷いた。
黒を基調にしたそれに荘厳な金の鎧。
赤いマントに普段と違う髪型。
「ふぅん、騎士と竜騎士か。いいじゃん」
「うん、二人とも凄く似合ってる」
「そりゃどーも」
「彰人。…すまない。二人は…」
適当な返事をする彰人に冬弥が窘める。
それから首を傾げた。
「桐谷さんの王子かな」
「日野森さん!…これ、羽衣なんだって」
「羽衣ってか…羽根っぽいよな」
「そうだな…?…二人とも、とても似合っている」
「本当?ありがとう!」
柔らかく冬弥と遥が笑う。
ほわほわした柔らかい空気が周りを包んだ。
「…なんつーか…大変そうだな」
「それはそっちもでしょ」
乾いた笑いを向ければ志歩はしれっと言う。
「別に。…相棒だからな」
「へえ?」
「そっちはユニットも違うだろ」
「それこそ別に、でしょ。…全部引っくるめて桐谷さんだしね」
「…そーかよ」
笑う志歩に彰人は肩を竦めた。
…と。
「…二人は仲が良いのだな」
「そうだね。…私達ももっと話をしよっか?」
冬弥に、遥が笑いかける。
そうだな、と冬弥が笑う前に引き寄せた。
「とーやぁ?」
「…桐谷さん、そういうトリックはいらないからね?」
ぐいと手を引いた志歩がじんねりと言う。
ふは、と誰ともなしに笑いあった。


今日はハロウィン。


バグから始まった…いつもとはちょっぴり違う、非日常。

たまには、こんな日常もありかもしれないね?


「竜騎士の衣装、歩きにくそうだね?」
「そちらの衣装もなかなか歩きにくそうだが…」
「…。…オレがいるんだから大丈夫だろ」
「何の為に私がいると思ってんの」

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