司冬ワンライ/電車 ・秋の風景

「先輩!紅葉が見えます!」
「そうだなぁ」
わくわくした冬弥の声に司は小さく笑いながら同意する。
行楽シーズン、弁当でも持って少し遠出をしようかと持ちかけたのは司だがまさかこんなに喜んでくれるとは思わなかった。
「まだ行き道の電車内だが…そんなに楽しいか?」
「はい!…先輩と一緒なのできっとどこでも楽しいと思うのですが…美しい景色を、先輩と直接共有出来るのは嬉しいです」
ふわふわと笑う冬弥に、司は胸が高鳴るのを感じる。
やはり冬弥は可愛らしい、と思わず笑顔になった。
「わっ」
「…と、大丈夫か?」
電車がガタン、と揺れ、彼がたたらを踏む。
それを支えつつ聞けば冬弥はこくりと頷いた。
「はい。…大丈夫です。ありがとうございます」
「なぁに、冬弥が無事で何よりだ!」
笑い掛ければ彼は僅かにはにかんだ。
窓の外に秋の風景が広がる。
赤や黄色の葉っぱたち、橙の花や紫の果実。
見事なそれに司は目を細めた。
きっと目的地まで後少しなのだろう。
「美しい光景だな!」
「そうですね。…とても、綺麗です」
秋の光に冬弥の表情が照らされた。
「?司先輩?」
「いや。……美しいのは冬弥であったな、と」
「…!」
司の言葉に冬弥は目を丸くする。
何かを言いかけた彼の言葉は車内アナウンスにかき消された。
ゆっくりと電車は減速する。

目的地まで、もうすぐ。

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