レン誕生日

「…え?大人のデートがしたい?」
きょとりとするカイトにレンはこくこくと頷いた。
今日はレンの誕生日だ。
カイトが何でも叶えてあげる、なんて言うものだから、思わずそう言ったのだ。
「デートじゃなくて?」
「大人の、ってのが大事だろ」
「…うーん、それがよく分からないんだけど…大人のって…?」
「言っとくけど、おれ、大人だからな」
首を傾げる可愛い兄にレンは真面目な顔で告げる。
「設定年齢は14歳でしょう?」
「設定年齢はな。稼働年齢も入れたら大人」
「…それ言っちゃうと俺は…」
「言っちゃわなくて良いから!おれはそういう話をしたい訳じゃないから!」
くすくすと笑うカイトに慌てて遮った。
そうやってはぐらかされるのは分かりきっている。
今年はきちんと約束をしてもらわなければ。
「…分かった分かった。でもすぐは難しいから…うーん、大晦日で良いかな?」
「えっ、逆に良いの?大晦日」
カイトの提案に思わず目を丸くしてしまった。
大晦日といえば家族で過ごすことが定説だ。
レンたちもご他聞にもれず今まではマスターたち家族と過ごしてきた。
「今年最後は女子の曲を録るから年越せるまでに帰れるか分からないって言ってたよ」
「…相変わらずだな」
兄の言葉にレンは呆れる。
ボーカロイドなのだから歌えることは喜びだがこんな年末まで作業していると不満が出そうな気がするが…。
「その分お正月休みが長めなんだって。…あ、三が日終わったら男子の曲録るから準備しとけって言ってたよ」
「…三が日は休みな事に喜ぶべきなのか…?」
引き気味のレンにカイトがくすくすと笑う。
青い髪がさらりと揺れた。
「それで、良いかな?大晦日に大人のデート」
「もちろん!!」
その言葉にレンはすぐに頷く。
こんなチャンスはめったにないのだ。
「約束だからな、大人のデート!!」


そして、当日。

「大人の、デート…?」
カイトが首を傾げる。
しょうがないじゃん!とレンが吠えた。
最初は高級レストランを予約しようと思った…のだけれど。
「めっっちゃ弊害あった」
「ああ…まあ…」
ため息を吐き出して机に突っ伏すレンに苦笑しながらカイトが頭をなでてくれる。
ここはよく行くファミリーレストランだ。
…大晦日でもやっている。
逆に大晦日なのに営業しているんだなぁと感心しきりだ。
…そう、レンの見た目の年齢で拒否される前に大晦日だからどこもそんなに遅くまで営業していないのである。
「高級レストランでご飯食べて観覧車乗って年越しする街を一緒に見ようと思ったのにぃい…!」
「レンの大人のイメージがちょっと分からなくなってきたかも…?」
頭を抱えるレンにカイトが少し首を傾けた。
「…大人とか言うからホテルにでも行くのかと思ったのに」
「……ん?!」
小さな声にレンはがばっと顔を上げる。
今、この兄はなんと??
「良いの?!」
「まあ、誕生日プレゼントだからねぇ」
勢い良く聞くレンに、へにゃりと笑うカイトの耳が赤い。
まさか、そんな事を許してくれるだなんて。
「…毎日が誕生日なら良いのに…」
「調子乗らないの」
くすくすと笑うカイトの手にキスをする。
いつもならするりと逃げてしまうのに今日は逃げなかった。

期間限定の誕生日プレゼント。

大切に、大切にゆっくり暴いていこうと、思った。


「起きたらそのまま初詣行こうか、レン」
「そうだな…。…兄さんが起きれたら、な」

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