ミクルカの日

「…セェエエフ!!!!」
ドタドタと走り込んできたミク姉ぇがおれ達の前でセーフポーズを作る。
「いや、アウトだろ」
「うーん、セーフ寄りのアウトかなぁ」
「兄さんは甘すぎるって。がっつりアウト」
困ったように笑う兄さんにおれは言う。
つーか巻き込ミクルカすんなっての。
「大丈夫大丈夫、本人がアウトじゃなければセーフセーフ」
「何その理論」
「あはは。なら、セーフかもしれないね」
ミク姉ぇの言葉に嫌な顔すれば兄さんがふわふわと笑った。
二人してきょとんとすれば兄さんはあっけらかんと言う。
「だって…ルカちゃん、今衣装の調整中だからね」


「マスターの嘘つきぃい…!」
ミク姉ぇがじたじたと足をばたつかせる。
それはマスターに言ってほしいし、衣装担当はマスターじゃない…まあ良いか。
おれが何言っても聞かんしな。
「ところで、何の衣装の調整してんの?」
「さぁ?…でも、今年っぽい衣装にしたって言ってたよ」
「今年っぽいって何。料理?」
「それは雪ミクの話じゃないかな…」
兄さんのそれにもミク姉ぇは見向きもしない。
「…カイト兄様、お待たせいたしました」
ふと柔らかな声に振り向けば衣装を着たままのルカ姉ぇが…。
…ルカ姉ぇ、だよな?
「はぁい、すぐ行くね」
「宜しくお願いします、カイト兄様」
「こちらこそ宜しく」
「いやいやいや待ってルカ姉ぇ!!ミク姉ぇもいつまでも拗ねてないでルカ姉ぇ見て!!」
穏やかに進行しそうになってた会話を必死で止める。
つぅか何、それ。
「もー、何レンくん、初音さんはテンションだだ下がり中なんで、す…けど…」
やる気なしモードでおれが指す方を見たミク姉ぇが止まった。
「…ルカ、ちゃん?」
「はい。ルカですわ」
「今年っぽいって言ってたけど、頑張ったんだねぇ」
「ええ。カイト兄様の衣装はまだ迷っておられましたわ」
「そっか、じゃあ早く行かないと…」
固まるミク姉ぇを置いてうちの癒し系たちはそんな話をし出す。
何??兄さんも着るの??
それを?!
「…ねぇ、それ…龍?」
「はい!今年は辰年ですから」
にこにことルカ姉ぇが言う。
ミク姉ぇは大きく息を吐きだしてからルカ姉ぇの肩をがしりと掴んだ。
「私が着る」
「…え?」
「私が、龍着る」
真剣な目をするミク姉ぇ…いや、まあ、気持ちは分かる。
だって、ほぼ肌だもんなぁ…。
角と、尻尾と…ミニ和服(よく分かんねぇけど)で後は何もなし。
何も、なし。
「け、けれど、私用に採寸してしまって…きゃあ?!」
「ルカちゃん、私ねぇ……ちょっとそろそろ限界なんだぁ…」
にっこりとミク姉ぇが笑って慌てるルカ姉ぇを抱き上げる。
やぁ、目が笑ってないですよー、ミク姉ぇ。
「お兄ちゃん、ちょっとルカちゃん借りるね」
「…ほ、程々にね…?」
兄さんが困ったように言う。
これは指図め生贄の人間に一目惚れされた挙句美味しく頂かれる美しい龍、って感じなんだろうか。
「んじゃまあ、おれ達も行くか」
ミク姉ぇとルカ姉ぇが消えた先を見送ってから立ち上がる。
きょとんとする兄さんにおれは笑みを向けた。
「ルカ姉ぇは龍狩りに合ったって、伝えにさ」




美しい龍は狩られる運命に合うのだそうです。



その後どうなったかは、ミクルカの日をとうに過ぎたニ人しか知らぬこと!


「ってかあの衣装、本来はどういうコンセプトなん?」
「龍と人間の曲か、龍騎士と龍の曲か迷ってとりあえず龍を作ってみたんだって」
「…とりあえず作るにしてはおかしいけどな…」

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