何かあると思っていた。
何かあると…思っていたけれど。
「…日野森さん!」
待ち合わせ場所に着くと、彼女がホッとしたように声を上げる。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「ううん、こっちこそ、遅くなってごめん。…それで…」
申し訳なさそうな彼女に首を振りつつ、それを傾けた。
「今日はどうしたの?…草薙さん」
草色のふわふわした髪を揺らす彼女…寧々に聞く。
彼女はえっと、と話を切り出した。
「日野森さんが誕生日だって、聞いたから」
「…え、あぁ……」
唐突なそれに目をぱちくりと瞬かせ…志歩は笑う。
確かに今日は志歩の誕生日だ。
「別に良かったのに…」
「日野森さんにはお世話になってるし…お誕生日おめでとう。…これ、あたしから」
「ありがとう、草薙さん」
寧々から渡された紙袋を受け取り、志歩は礼を言う。
「後、これは白石さんから」
「えっ、白石さん?」
思いがけない名前に志歩は驚いた。
確かに寧々と杏は同じ学校だが…。
「そう、白石さん」
「そっか、じゃあありがとうって伝えて」
「分かった。それから…」
「まだあるの?」
頷いた寧々が小さく笑って、これが最後、と何かを手渡してくる。
「これが、桐谷さんから」
寧々から渡されたのは青いリボンの端だった。
「絶対引っ張らないで、そのリボンを手繰りながら進んでくれる?」とは寧々の指示だ。
また何を企んでいるのやら。
仕方がないのでその通りに歩いていく。
…と。
「あっ、ハッピーバースデー、日野森さん!!」
嬉しそうな杏の声。
え、と固まってしまった。
だってそこには。
「…日野森さん、お誕生日おめでとう」
普段とは違う髪型、見たことのないメイク、お姫様みたいな遥がそこに…いた。
「桐谷…さん?」
「うん、どうかな?似合う?」
開いた口が塞がらない志歩に遥が楽しそうに笑う。
「…うん、すごく…似合ってるよ」
「本当?ありがとう」
やっとの事でそう言えば、遥は嬉しそうに微笑んだ。
「やったね、草薙さん!大成功!」
いえーい!と杏と、いつの間にか戻っていたらしい寧々がハイタッチするのが見える。
「もー、杏は何もしてないでしょ」
「そんな事ないし!ちゃんとプロ呼びましたー!」
「ぷ、プロ…?」
もう何から驚けば良いか分からない志歩の前に、誰かが出てきた。
「ボクが…呼ばれました……」
「?!瑞希さん?!」
「もー…。…久しぶり、志歩ちゃん」
「え、絵名さんまで!」
ポーズを決める瑞希に呆れ顔の絵名、と馴染みの顔に志歩は驚きの声を上げる。
「ちょっと、大掛かりが過ぎない?」
「そう?…お誕生日だから、良いかなって」
「いや、そういう問題じゃ…」
にこにこと楽しそうな遥が、「瑞希さんがコーディネート全般してくれて、絵名さんがメイクをしてくれたんだよ」と教えてくれた。
それを聞いてしまえば非難するわけにもいかなくて。
代わりにはぁ、と息を吐く。
「まあ…貰ったものは有難くいただくけど」
「ふふ、どうぞ?」
それに対して、にこ、と微笑む遥をお姫様抱っこした。
おお、と何故だか周りから声が上がる。
「あ、あたしも…白石さんをお姫様抱っこ出来るよ?!」
「えっ、うそ?!!草薙さん?!」
「凄いなぁ、二人とも!ボクは絵名をお姫様抱っこするのは、ちょっと…」
「…待ちなさいよ、どーいう意味?!!」
「……はあ」
わいわいと盛り上がる彼女たちに志歩は再び息を吐く。
「?日野森さん…?きゃっ」
「今の内にプレゼント持って逃げちゃおうかなって」
小さな悲鳴を上げる遥に志歩は笑いかけた。
誕生日だからって振り回されるのは性に合わないから。
だから、志歩は遥を抱いたまま駆け出した。
このまま、可愛い遥と二人きり……どこまでも!!
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