ミクルカの日
「ふぅっ」
お風呂から上がったあたしは長い髪を拭きながらソファに身を沈めた。
お姉ちゃんみたいに短いのも楽だと思うけど、それでも長い方が良いんだよねぇ。
だってこの方があたしらしいし!
「お疲れ様です、ミク姉様」
「…あ、ルカちゃん!」
柔らかい声に振り向くと、カップを持って微笑んでいるルカちゃんがいた。
「どうぞ」
ことん、と音を立てて置かれたのは湯気を立てている…。
「ホットショコラですわ」
「えー!有り難う、ルカちゃん。嬉しい!」
小さく微笑むルカちゃんにあたしはそう言ってカップを持ち上げた。
甘い香りがふわりと鼻腔を擽る。
口に含むと甘い味がじんわり広がった。
「…はぁ、美味しい」
「有り難う御座います」
「よく作り方知ってたねー?」
隣にちょこんと座ったルカちゃんに聞くと、「カイト兄様に教えて頂きましたの」と微笑む。
…うん、まあいいけど…。
お兄ちゃんの将来が不安だよ…。
「?どうか…?」
「ううん、何でもない」
首を傾げるルカちゃんにひらりと手を振った。
「ルカちゃんも疲れたでしょ?…確か今日はお姉ちゃんとリンちゃんとレコーディングだったよね?」
「ふふ、レコーディングは楽しいですし…大丈夫ですわ」
そう言う私ににこり、とルカが笑う。
パワータイプのお姉ちゃんとリンちゃんに挟まれて大変かと思ったんだけど…大丈夫みたいだ。
「そう?ならいいんだけど…」
ホットショコラを飲みながらちらりとルカちゃんを見ると「はい」と言って微笑む。
う〜ん、いつもこの癒し系笑顔にまあいいかって思っちゃうんだけど…結構無理しちゃうから気をつけてあげなきゃね!
それにしても…。
「はーあ、ルカちゃんが来るならもうちょい起きてたいなぁ」
「まあ。夜更かしは身体に悪いですわ」
あたしの発言にルカちゃんが窘めるように言う。
「大丈夫だよー最近はよく寝てるし!」
「それでも…。明日もレコーディングなのでしょう?」
「んぐ、まあ…。…分かったからそんな目で見ないでよ」
非難するような目に、あたしもそう言って笑いかける。
人の事はこうやって気遣って意見言ってくれるから…まあいいか。
「ま、今日はルカちゃん特製のホットショコラを飲むまでで我慢しよっかな!」
「…はい」
「…?どうかしたの?ルカちゃん」
明るく言ったのに、さっきまでいつも通りだったはずのルカちゃんが俯いてもじもじし始めた。
「…あ、あの」
「何?気になるなぁ」
少し頬の紅いルカちゃんに軽く言うと、勢い良く顔を上げたルカちゃんが「失礼します!」と小さな声で言って…。
その後すぐ、頬に唇が触れた。
「…今日は、ミクルカの日、でしょう?」
ぽかんとするあたしにルカちゃんがはにかんだ笑顔で言う。
そ、そういえば…今日は1月3日、あたしの製造番号とルカちゃんの製造番号が並ぶ日、だっけ。
「お、覚えててくれたんだ?!」
「ふふ、毎回ミク姉様が祝って下さっていますもの。覚えていますわ」
微笑むルカちゃんはとても綺麗で可愛くて。
とても甘い甘い、ホットショコラの様な、存在。
…もー、もー…!!
「きゃあっ?!」
「もー、ルカちゃんってば可愛いんだからー!」
「み、ミク姉様?!」
ソファに押し倒してニヤリと笑いかけると焦った声で言ってきた。
この状態で止めれる訳もないっていうのにー。
「だって今日はミクルカの日じゃない?ならプレゼントがあっても良いよね!」
笑いながらルカちゃんの長いピンクの髪を持ち上げる。
柔らかくて優しい香りのするそれに口付けて、それに、と続けた。
「こんな可愛いルカちゃんからのキスだけであたしが満足出来ると思う?」
ウィンクしながら言うと、きょとんとしたルカちゃんが小さく笑う。
「…もう。ミク姉様は欲張りですわ」
照れて、少し拗ねたように言うルカちゃんに…まあその通りだから否定もせずに…あたしはそっと口を重ねた。
通して伝わるそれは、とても甘くて。
まるであたしたちの関係の様。
今日レコーディングした、甘い香りに釣られた狼の唄をリフレインしながら。
…そういえば今日は帰りに見上げた月が綺麗だったな、と思った。
「…何でも良いけど、部屋でやってくんねぇ?ミク姉ぇ、ルカ姉ぇ」
「れ、れれ、レン兄様?!!」
「レンくんにだけは言われたくないもーん」
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