司冬ワンライ・さあどっち?/ご褒美

「どーっちだ!!」
急に妹の咲希が握り込んだ両手を突き出してにこにこと笑う。
「…む、ではこちらだ!」
右を指差すと、じゃじゃーん!と言いながら手を開いた。
中からはピンク色のキャンディが姿を見せる。
「桃味のキャンディでしたー!ちょっと休憩どうぞっ!」
「おお、ありがとうな、咲希」
「えへへ、どういたしまして。じゃあアタシはお兄ちゃんが選ばなかった方の、マスカットキャンディ食べちゃおっと!」
楽しそうに笑った咲希はもう片方を開き、中にあったキャンディの包を開いて口に放り込んだ。
こういうゲームの場合、片方には何もないこともあるが、彼女はどちらにもキャンディを忍ばせていたらしい。
「…なるほど、これは使えるな…」 
「?ほぉうかしはの?」
きょとんと咲希が首を傾げた。
何でもないぞ、と笑って司もキャンディを口に放り込む。
口いっぱいに甘酸っぱい味が広がった。



「冬弥!」
「…。…司先輩」
図書室にいた冬弥に声をかけるとふわりと微笑んだ彼がやってくる。
今日はあまり生徒もいないようだ。
「お疲れ様です。…今からフェニックスワンダーランドですか?」
「ああ。…その前に、いつも頑張っているお前に、ご褒美をやろうと思ってなぁ」
小首を傾げる冬弥に笑いかけ、先日の咲希と同じように手を突き出した。
「さあ、どちらが良い?」
一瞬驚いたように目を見開いた冬弥が「では、こちらで」と左を差す。
開くと中からは星型のキャンディが顔を見せた。
「お、レモンキャンディだな。ほら、口を開けると良い」
包を解き、指でつまんで彼の口元に持っていく。
少し恥ずかしそうにした冬弥が小さく口を開けた。
キャンディを口の中に入れてから…己の口で蓋をする。
舌で奥まで入れ、すぐに引き抜いた。
流石にこんなところでディープキスをするわけにはいかない。
「…っ?!」
顔を赤くする冬弥は確かに可愛いが、理性も大切だろう。
…大分その糸は切れそうになっているが。
「…図書委員、頑張れよ。冬弥」
代わりにそう囁いて、もう片方に入っていたコーヒーキャンディを握らせる。
では!と手を振り、司は教師に怒られないくらいの速さで廊下を駆けた。
ふう、と息を整えて冬弥にやったコーヒーキャンディと同じものを口に含む。
苦いはずのそれは、まるでレモンのように甘酸っぱい気がした。


甘い甘いキャンディのようなご褒美を貰ったのは、

さあどっち?



「…甘いのは良いけど、後で青柳くんに謝っといてよね…」
「おぅわ?!…いたのか、寧々」

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