カイコク誕生日

さて、今日は鬼ヶ崎カイコクの誕生日である。
「鬼ヶ崎、誕生日おめでとう」
「おお、ありがとな、忍霧」
さらっとした祝いの言葉に、カイコクがにこっと微笑んだ。
もっとサプライズや盛大なお祝いをしたいが…彼が普通通りが一番だ、なんて言うから仕方がない。
祝いの形なんて人それぞれだ…幸せの形も、また。
こんな、閉じ込められている中での『普通』は逆に特別なのかもな、と思う。
「…俺の誕生日ってこたァ今日は節分なのか」
「…。…相変わらず貴様は節分が好きだな」
ふと彼がそんな事を言うからザクロは呆れてしまった。
何故だかカイコクは節分という行事が好きらしい。
鬼、と付く割に変な奴だと息を吐いた。
「まあな。誕生日や…クリスマスなんかよりは、好きだねェ」
「俺はクリスマス生まれなんだが?」
「…わぁるかったよ」
幾度か重ねたやり取りをまた繰り返す。
これもまた日常になりつつあった。
…と。
「…おや、忍霧様、鬼ヶ崎様」
目の前から歩いてくるアルパカの被り物をした男に思わず眉を顰める。
カイコク等は明らかに嫌そうな顔で刀に手をかけた。
「…鬼ヶ崎」
「…」
その行為を窘め、ザクロはパカを見上げる。
相変わらずですねぇ、なんて表情が見えない顔でパカは笑った。
「何の用だ。…今日はゲームはなかったはずだが」
「ええ。…ですが、何も無いというのもまた味気ない。今日は節分ですから」
そう言ったパカが指を鳴らす。
ぽん、なんて軽い音が隣で聞こえた。
「…は、なん、え…?」
「鬼っ…!ヶ崎…?」
ぽかん、とした彼の声。
慌てて名前を呼ぶが目線の先にはカイコクはおらず、反射的に下を見る。
「こ、子ども…?」
「ええ。…忍霧様、こちらを」
「っ」
パカが何かを投げてきた。
慌てて受け取ればそれは豆で。
もう何が何やらわからない。
それはカイコクも同じなようで目を白黒させていた。
「本日は節分です。ですので、鬼に向かって豆を投げて下さい。鬼は6体、全てに豆を当てればお二人の勝ちにございます」
「…鬼ヶ崎が子どもになった意味は?!」
「子どもは鬼を怖がるものでしょう。…と、いうのは建前で普段の鬼ヶ崎様のスペックですと、勝負がすぐ付いてしまいそうですからね」
「…っ、おしぎりだけ子どもじゃねェのはひきょーじゃねぇのかい?!」
「お二人とも鬼にしては収拾が付かなくなってしまった時に困りますでしょう?」
パカのあっさりした説明に何故だか納得してしまう…それもどうかとは思うけれど。
「では、ゲーム開始と参りましょうか」
「っ、逃げるぞ、鬼ヶ崎!」
「?!ま、まってくんな、おしぎり!」
そのセリフが聞こえたと同時にザクロはカイコクの手を引っ掴んで走り出す。
鬼が6体、普通で考えればここにはいない他の仲間が鬼である確率が高いからだ。
「…おれ、たんじょーびなんだか?!」
「節分の方が好きだとか言うからだ!」
喚きながら二人して廊下を駆ける。
嗚呼、普通ではなくなってしまったな、なんて思いながら…存外このゲームを楽しんでいた。


子どものカイコクと、節分ゲームで鬼ごっこ。
普通ではないからこそ普段の『普通』が愛おしい。


(ザクロが好きなのは、いつもの、普段通りの彼と普段通りのやり取りなのだ


それは誕生日であったとて変わらない事実!)



「おわったら…っ、ふつうにおいわいしてくんなァ…っ!」
「…それは、死亡フラグとかいうやつではなかったか…?」

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