ザクカイ♀バレンタイン

「…そろそろネタがねェ…」
ぽつり、と彼女が言うから、ザクロは思わず嫌な顔をしてしまった。
「…なぜ口に出してしまったんだ、鬼ヶ崎」
「ねェもんはねェし」
特に読んでもいなかった本を閉じながら息を吐けばカイコクはしれっとそう言う。
ネタというのはバレンタインのことだろう…もう少しやりようもあると思うのだが。
「お前さん、プレゼントは俺、っつうの、許さねぇタイプだろ?」
「破廉恥だからな」
「…いや、ハレンチって、ヤることヤッといて…まあ良いけど」
何故だかカイコクが楽しそうに笑う。
…何がそんなに面白いのだか。
「…普通に、手作りチョコレートに挑戦する、ではいけないのか?」
「…。…二度とお前さんの『妹』に会えなくなるとしても?」
「…。…俺が悪かった」
首を傾げたザクロにカイコクは真剣に言う。
甘いものが苦手なカイコク、しかも料理をしたことがないのに無茶だと言いたいようだ。
まあ彼女の性格からして料理は…どちらかといえば得意ではないほうだろう。
繊細なお菓子作りなら尚更だ。
…冒険はしないが、代わりに大雑把なのである。
それだけだから、サクラに会えなくなるようなことはないだろうが…嫌がることを無理に行わせることもない。
「なら、一緒に作るのはどうだ?」
「は?」
ザクロの提案にカイコクがぽかんとした。
「共に作るのならば失敗もすまい。失敗しそうになったら俺が止めてやることも出来るからな」
「…そりゃあ…。って、お前さんは良いのかい?」
「?何がだ」
彼女のそれにザクロは首を傾げる。
別にバレンタインだからといって男がもらうばかりだとは限らないと思うのだ。
外国では一様に気持ちを伝える日、であって、女性から男性へ気持ちを伝える日ではない。
気持ちがこもっていれば何だって嬉しいし、特にカイコクからの手作りだ。
嬉しい以外に何があるだろう?
「…ふはっ」
そう伝えれば彼女は吹き出してから楽しそうに笑った。
綺麗な黒髪がサラサラと揺れる。
「お、鬼ヶ崎?」
「いや、すまねぇ…。…うん、そうだな」
一頻り笑った後、彼女は目に溜まった涙を拭って頷いた。
「忍霧が手伝ってくれんなら…頑張ってみるかねぇ」
カイコクが綺麗に笑う。


今日は聖バレンタインデー。

好きだという気持ちを……彼女に伝える日。



「お前さんは…お菓子くらいが丁度良いかもしんねぇな」
「?どういう意味だ?鬼ヶ崎」
「ふふ、なぁんにも?」



(彼からの愛を具現化したならば、きっとそれは甘い甘いチョコレートよりずっと…)

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