第5回しほはるワンドロワンライ/バレンタイン・交換

甘い香りが街中に漂う。
本日バレンタインデー。
みんなが浮かれる…そんな日に。


「日野森さん!」
「…桐谷さん」
明るい遥の声がして、志歩は小さく微笑んだ。
「来てもらってごめんね、待たせちゃったかな?」
「ううん、さっき来たところ」
少し申し訳なさそうに言う遥に首を振れば、彼女は、良かった、と笑顔を見せた。
「じゃあ…はい、これ」
「ありがとう。…私からも」
「…!ありがとう!」
小さな袋を渡され、志歩も同じように手渡す。
「見るのは帰ってからにするね。…ふふ、楽しみ」
「桐谷さんがそうするなら私もそうしようかな」
袋を覗き込み、嬉しそうに言う遥に志歩は笑いながら肩を竦めた。
こんなに笑顔を見せてくれるなら選んだ甲斐があったというものである。
あまりガラではなかったのだが…こういうのも良いな、と思った。
「…ふふ」
「…。…なに」
何やらクスクスと笑う彼女に、志歩は少しムッとしながら聞いてみる。
楽しそうなのは良いが笑われるのはまた訳が違うからだ。
「ううん。…ただ…」
「ただ?」
首を傾げる志歩に遥は僅かに微笑みながら言葉を紡ぐ。
思わず目を見開いてしまった。
「…日野森さんが交換してくれるとは思わなくて」
「そりゃあまあ…ガラではないけど。…一応恋人なんだし、するでしょ」
「…!…そうだね」
何故だか彼女も綺麗な瞳を真ん丸にしてからふわぁと笑う。
素直に、可愛いな、と思った。
「ま、友だちでも交換はしたと思うけど」
志歩のそれに遥も頷く。
確かに、きっと友だち同士だって、周りが渡し合っていれば交換くらいはするだろう。
特に咲希やみのりなんかは行事が大好きな部類だ。
けれど。
「でも、込める想いは違うから」
彼女の綺麗な手を持ち上げて口付ける。
市販のチョコレートでも、想う気持ちが違うのだ。
この、愛しい気持ちは…遥にだけで。
「日野森さん」
「…好きだよ、桐谷さん」
「…うん、私も」
小さく笑い合い、触れるだけのキスをする。


今日はバレンタイン。
乙女たちが気持ちを交換する、そんな日。

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