司冬ワンライ・寝言/うとうと

春の日差し差し込む、穏やかな放課後。
柔らかな蜜柑色に照らされた、図書室のカウンターの片隅に。
ごちゃごちゃ野暮だろう。
簡潔に言えば、そう。
天使が寝ていた。



ショーに関する資料が見たくて図書室に行った。
その日の当番だったらしい冬弥が嬉しそうに場所を案内してくれ、「カウンターにいるので、終わったら声をかけてください」と言われてから数十分。
随分と真剣に読み耽ってしまった、と一番重い本を抱えて、カウンターへと向かった。
うっかり待たせてしまったと司は声をかけようとし…固まる。
そこには柔らかに見つめる灰の瞳を無くし規則正しく息を吐く…つまりはうたた寝をしている冬弥が、いた。
そんな彼の姿は珍しく、司はカウンターに肘を付いて彼を見る。
伏せられた眉、うつらうつらと舟を漕ぐ首。
クラシックをやっていた頃は眠れない日もあったようだが…これは最近読んでいるミステリー小説が面白くてついつい夜ふかしをすると言っていたせいだろう。
まあ確かにうとうとするには心地の良い時間だものなぁとぼんやり思った。
冬弥の珍しい姿が見られ、何だか得した気分だと司が笑みを浮かべた、その時。
「…さ、せんぱ……」
「む?」
「…司、せんぱ……」
小さな寝言が、冬弥の口から漏れた。
己の名を呼ぶ、ということは夢でも共にいるのだろう。
それはきっと冬弥にとって幸せなこと。
「オレはここにいるぞ、冬弥」
小さな声で告げ、司は彼を起こさないよう、さらりと春風に揺れる彼の髪に口付けた。


願わくば、この春に溢れた彼の夢が、幸せなものでありますように。



「…司先輩……空も飛べるんですね……」 
「…ちょっと待て、冬弥。どんな夢を見ているんだ?!」

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